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スクライド/子カズクー

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じぃっと眼力のある嫌な視線を感じてクーガーは疲れてるんだけどな…と胸中で愚痴をこぼし「どうしたカズヤ」と聞いてやることにした。

「カズマだッ!」定例の叫び声がきーんと頭に響いて目を閉じる。

「頼む、少し静かにしてくれ…」

珍しくも弱弱しい声音に幼さ特有の大きい瞳がくるりとさらに大きくなる。

「なんだよ、具合悪いのか?」

「あー…いや、ただの飲み過ぎだ」

「飲み過ぎィ?」

ぴくり、思い切り跳ね上げられた眉を見てクーガーは少しだけ冷や汗をかいて力なく笑う。その表情がさらにカズマの怒りに触れている自覚はあまりない。

「てめぇ、仕事いってくるんじゃなかったのかよ」

「だから仕事だよ」

そういう仕事だったんだよ、ため息と同時に告げる。カズマはそれ以上は何か言いたそうだがクーガーが疲れているのは流石に肌で感じていたので喉まででかかった声をおさえる。かわりに先程苦言を呈されたばかりの視線をまた飽き足らず向け身を乗り出す。胡乱げなクーガーの目線にも気付かず見つめ続けて、どうしようもなくなってまた言葉をはく。少々酒臭いかもしれないのは仕方無い。

「………あのなぁカズヤ。俺はお前と穴兄弟になる気はないんだが」

「なっ?!そんなん俺だってねぇよ!」

「じゃあ何なんだよ」

「………あー」

なんだったか一瞬素で忘れて、改めてクーガーを見てやっと思い出す。穴兄弟だなんて言われて本気で動揺した。そんな目で見たことなんてないのに急に何を言い出すのかこの男は。ただ何というか、

「…にあわねーなぁ、白って」

「はぁ?」

どこにいってきたのやらクーガーは白いワイシャツに薄い紫のネクタイをゆるくつけていて、今はもうほどいてワイシャツも窮屈そうに胸元を開けているが脱ぐまでの気力はないらしくそのまま倒れこんでいる。普段はワイシャツなんて着ていることはないし、もっと身軽で、それでいて丈夫な服を着ているのになんだこれは。長髪の人が急に短髪になったときのような違和感。別に似合わないというほどではないのかもしれないけれど、どうにも見慣れない。

「あ〜今日は市街だったんだよ…」

「市街?兄貴市街いったのか?」

「おお市街いったぞだからもうねむいんだ」

「流す体勢に入ってんじゃねぇか」

なんだって今日はそんなにかみついてくるんだ、と言われるがカズマにはそこはなぜか分からない。似合わないワイシャツが気になる、ってだけじゃない。いやでもそうなのかもしれないけど。

「っ〜〜〜…」

なんだよ、あっさりと、穴兄弟とかほんともうやめてほしい。普通なら多感な時期の兄弟分にそんなこと言わないだろう。眠いせいもあるのか気遣いもおざなりでその上酔ってるせいで無防備で。知らない、俺はもう知らない。兄貴が悪いんだ。



ふと重みを感じて殆ど眠った脳に起きろーと伝令する。そうして開いた視界の先に、弟分。まだ幼い瞳が貫くようにこちらを見ていて違和感に眉をひそめる。

「なんだよ、まだ何かあん……へ?」

「あ、兄貴が悪いんだからなっ」

おざなりに引っ掛かっていた残ったボタンを外されて漸く覚醒する。何、何事。

「おいカズヤっ、…………て、」

「あれ?」

のしかかってきた体を押しのけようとしてカズマの体が動かないことに気づく。こいつはこんなに力があっただろうかと考えてからもしかしたら自分に力が入ってないんじゃないかという結論に達した。カズマもまさかいくら下にいるとは言え俺がカズヤをどけられないということがあるとは思っていなかったらしく押し付けられた力の抜けた手をまじまじと常套句の突っ込みも忘れて不思議そうに見ている。そうして少ししてから笑う。

「若干冗談のつもりだったんだぜぇ?」

つまり押しのけられたらやめようと思っていたのだろう。自分もこんなに酔ってるとは思ってなかった。こいつに会う前までは確かによくやっていた酒やたばこはやめたのだが、久々に飲んだらすっかり飲み方を忘れていたようだ。いや、強かったはずなのだ、確かに。その小さな自信が仇となったらしい。仕事をこなすことまでは出来てもすっかり気も抜けてしまったのだろう。

これは不味い。

「……カズヤ」

「カズマだ」

「お前こんなことどこで覚えてきたんだ」

かくなる上は会話で萎えさせよう作戦だ。

「おいおい兄貴、こんな場所じゃ子供は変態の相手することでぐれぇしか稼げねぇよ。兄貴だってそうだろ?」

「生憎俺は昔から強かったんだなぁこれが」

無駄口を叩いていればなんとかならないかなーという淡い期待はあったのだがあっさりと首元に舌が這わされて唇を噛む。

「っ、」

「と言っても、俺も兄貴と同じで昔から強かったんだけど」

「聞いた話じゃねぇか…じゃ、やめろ」

どっと疲れて酔ってることを抜きにしても体に力が入らない。何だってあの夜会の連中は酒飲みばっかの集まりだったんだ。厄介な仕事回しやがって、本当に憎らしい仲介屋だ。こっちがガキ一人抱え込んだっていつもからかってきやがるし。けどまあいくらなんでもその抱え込んだガキに只今押し倒されてますって言うのは笑いごとにならない。

「……カーズーヤ」

「いやならぶっ飛ばしてくれていいんだぜ?」

「力入んないって分かってていってるだろ」

「飲み過ぎ注意だろ?」

兄貴の負けだ!ってここまで笑顔で言われては俺だってカズマが可愛くないわけではないので少しばかり絆されそうになる。いや、ダメだ自分。仮にも最強のアルター使いと名高い自分がガキに掘られるなんてそんなことあってたまるかという。

「クーガーいるかー?」

「もう少しはやく来てくれてもよかったぞ!」

がばりと起き上がり仲介屋に自分の存在を教える。カズマはつまらなそうな顔をしているが仕事が終わったのだ。金を払いに仲介屋がくるのは当然のことで、本気で抵抗しなかった理由にはこれもある。別にほだされたわけではない。全然。そんなことはない。

「よっ!…って、何か取り込み中だったか?」

「いんやただの着替え中だよ。て言うか何だよあの連中。あの大量の酒を飲まないと仲間にはいれないとか」

小刻みに震える手をみて眉根を寄せる。あんな変な条件がつくとは思ってなかった。

「あー…いや、伝え忘れてたんだ」

「伝え忘れた?」

仮にも信頼と情報が命の仲介屋が?

しかも半笑いでどことなく視線が泳いでいる。これは何かあるだろ、と思って締め上げようと思った瞬間体に力が入らないことに気づく。仕方ないのでカズマにかわりに締め上げろとアイコンタクトで伝える。

どうやらきちんと伝わったらしくアルター能力を発動させたカズマが一瞬で仲介屋を抑え込む。いってぇ!とわめく声が聞こえるがそこは無視だ。

「で、何隠してんだよ」

「あー…言わなきゃダメ?」

「ダメだ」

「……実は情報漏れてたらしいんだよ、な。だから酒に軽い筋弛緩剤が混ぜられてたらしい」

「はぁ?」

肩にかかったワイシャツをつかもうとした手がぴくりと止まる。もしかしてこのさっきから震えてるのって。

「い、いやー、凄いぜクーガー!そんな薬もられた状態で依頼こなしちまうなんて!流石!最強のアルター使いだな!」