スクライド/子カズクー
「……カズヤ、お前はこういう仲介屋捕まえるなよ?」
「言われなくたってなぁ?…で、どうすんだ?」
「放りだせ。あと、分かってると思うけど報酬は5割増しだ」
「ええっ!せめて二割に!」
「何が二割だ!おまえの寿命も縮めるぞ!」
「解毒剤やるから!」
「ほっときゃあ治るだろうが筋弛緩剤なんて」
若干視界もぼやけてきたが一晩経てばすっかり抜けきるだろう。その間にもし襲撃があってもそこらへんの雑兵にやられるほど弱くもない。そこまで考えてふと先ほどまでのことを思い出す。視界もぼやけた状態で万が一、また押し倒されたらどうしようか。
「……やっぱ薬くれるか」
「ワーオ!やっぱりお前は心の友だよクーガー!これからも御贔屓に!でも今は目もあんまり見えなさそうだからお前の弟分にわたしとくよ!グッバーイ!!」
「はぁ?ちょ、お前、速!」
「最速にそう言われるとは光栄だぜははは」
そうして風のように消えた仲介屋の残した薬をぼやけた視界の中カズマが持っているという最悪の状況に首がきりきりと動く。
「……ええと、カズヤ?」
「ふーん、兄貴今見えないんだろ?」
「それなりには」
「しかも力がはいらない」
「人並みには」
「でもって解毒剤は俺がもってる…」
「……風力温度湿度、一気に確認。それじゃあちょっと出かけてくるわカズヤ!」
「逃げんじゃねぇよ兄貴ッ!ってゴルァ!」
一時の気の迷いだろうと自らもまたアルター能力を発動させて逃げながら思う。けどまああのカズマが一度やり逃したことを諦めるだろうか、なんて心の奥で呟いてしまった時点でめまいがした、ような気がした。気のせいなのは視界が最初からぶれているからだ。というか何故こんなことになったんだったか。服か。似合わない服を着ていたのが悪かったのか。
「あー!白なんて嫌いだぁぁああ!!」
ついでにネクタイの紫も。
──なんて言ってたのが何年前だったか。
「ええと…隊長」
「何だ」
「おれだけ私服とか…駄目ですかね?」
「何を言っている」
嫌な思い出がよみがえりつつ白と紫のコントラストのホーリー隊員服を見て溜息を吐く。黒も混じってはいるが、なんだか複雑な気分だ。
「ところで」
「はい?」
「このあとあいてるか」
「あいてますけど…って、はぁ?…あんたまで白が悪いんだとか言うんじゃないでしょーね!!」
ジグマールが眉を吊り上げるのを見て自分の勘違いだよなそうだよなというか急に何を言い出してるんだという感じだよなしまった謝ろうと結論付けた瞬間、ぼそりとその低い声が一言。
「何故分かった…」
「すいませんホーリーやめていいですか」
作品名:スクライド/子カズクー 作家名:伊藤ひのえ