永遠に失われしもの 第12章
「ま~ったく・・どこまでシケてんのよっ!
こんなしみったれた人生なんて・・
見たくナイってのッ!」
腰まで届く長い髪を振り乱しながら、
グレルは黒い炭の塊と化した、
元は人体であったものから、
シネマティックレコードと呼ばれる、
人生の全ての瞬間の映像を収めた
魂のフィルムを回収している。
「ケチな強盗とか~・・
まったく何なのよっ!これ」
ローマ警察署の地下留置場であった場所は
無残に焼け焦げ、
瓦礫と焼死死体が堆く積もり、
人の脂の燃えた悪臭が漂っていた。
「ぶつぶつ言わないで仕事に集中しなさい。
大体これは、
本来派遣課である貴方の仕事です。
セバスチャン・ミカエリスの仕業
でなかったら、私だって、
こんな現場で回収する羽目には、
ならなかったんです」
ウィルは眼鏡の奥から睨みつけて、
また作業に戻る。
グレルは、一番奥の檻に行き、
そこで積み重なる焼死死体から、また
シネマティックレコードを引き出した。
「嫌ァ~もう・・男同士で愛するってのは、
両方美しくなきゃだめよ~~~
何、この黒こげ・・
山猿みたいな顔して・・
アンタに、至高の性別を超えた愛の
何がわかるって言うのよッ!
ア~~~~~ッ」
「大きな声を出さない!何事です?」
グレルの手にするフィルムには、
燕尾服姿の漆黒の悪魔が、
鮮明に映し出されていた。
ウィルはグレルの背後に近づき、
眼鏡を中指で上げて、
確認するように眺めている。
「いャ~ん、セバスちゃんのこと、
ヤッちゃおうとしてたわけ??
・・燃える・・燃えるわ~~~
山猿に凌辱され、
汚されるセバスちゃん・・
そして、そんなカレを癒すア・タ・シ」
自分のデスサイズで、グレルの後頭部を
一殴りして、ウィルは出口近くの
看守であった死体に近づいた。
彼のシネマティックレコードを手にとり、
眺めるウィルの目つきが変わる。
「これは・・・」
そこには、看守がセバスチャンから、
所持品を預かる映像が、
映し出されていた。
「これを、アレが持っていると?・・」
ウィルは、映し出された金の鍵のついた
首飾りを凝視している。
と、ウィルは、地下留置場の遺品を
確認しに来た警官の気配に気づく。
「グレル・サトクリフ!
作業は全て終わりましたか?」
「ほぼ・・・ネ」
「では、貴方は全て完了したかどうか
チェックした後で、ここを撤収して、
サンカリストの地下墓地に回収に
行ってください。
私は、確認しなければならないことが
ありますので、本部に戻ります」
「ええええ~~まだ今日やるのぉおおお?」
しかし、グレルが驚いて振り向いた時には
もうウィルの姿は無かった。
作品名:永遠に失われしもの 第12章 作家名:くろ