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永遠に失われしもの 第12章

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 幾多の人々の息を呑む音だけが聞こえる。
 望んでいた悪魔の登場に、歓喜すべきか、
 恐怖すべきか、悩んでいるかのように、
 全てが静止している。


「さて、ご命令は--
 奴らをということでしたね。
 
 --本当に?」


 ・・殺せっ・・殺せ!
 こいつらを・・殺せ!


「御意」

 
 群集の悲鳴が轟き始める。
 漆黒の執事は、
 まるで腕一杯に真紅の薔薇の花束を
 抱えているかのように、
 血の色の天幕を羽織るシエルを抱きつつ、
 地下教会のハルマゲドンが描かれた、
 精密なモザイク模様の壁を蹴って、
 空中を舞う。

 黒い羽毛が天井からひらひら舞い降りて、
 その度ごとに、宝石の埋められた、
 高い天井にまで、血しぶきが舞い上がる。
 そしてターコイズブルーだった筈の柱は、
 赤く塗り替えられていくのだった。


 シエルの感覚が遠のいていく。

 心の瞳からのぞく場面の、
 一瞬、一瞬が、写真のように切り取られ、
 脳裏に展開するが、それはシエルにとって
 まるで意味を為さなくなり始めていた。

 床に崩れ落ちていく黒いローブの男女。
 そして、
 最後に崩れ落ちた者のローブが
 剥がれ落ち、
 茶色の長い髪が床に広がった。


 床に再度降り立った、セバスチャンは、
 凍てつくような眼でそれを眺める。


「ふぅ...またこれは、見事な...」


 遅れて来た葬儀屋は、
 長い髪の少女の死体を、確かめながら、
 銀色の前髪の奥から、
 翡翠色の眼を光らせた。


「貴方が歴代教皇の霊廟で、棺に
 見とれていてくださって、助かりました。

 そうでなければ、
 貴方も殺して差し上げないと
 いけない所でした」


 セバスチャンの低く甘い声が、
 地下教会に響く。


 --主人の屈辱的なシーンを見られた
 とあっては、
 幾ら貴方でも生かしてはおけませんからね


「ヒヒ...君のお陰で、
 またここでいい仕事にありつけそうだよ。
 
 伯爵は大丈夫だったかい?」


「さぁ--どうでしょう--」


 セバスチャンは腕に抱えた、
 シエルを見つめるが、まるで死人のように
 冷たく、青白い。


 葬儀屋は、死神の大鎌をふるい、
 空間に穴を開けて、言った。


「もう死神たちが来るからねぇ、
 早くここから立ち去らないと...」


 セバスチャンとシエルと
 葬儀屋が消えた後に、
 暗闇で紅い眼が光った。