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Alf Laylar wa Laylah

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 そんなことか、と言ってものすごい楽しそうな笑顔を見せてくれたイフリートは、エドを抱えたまま瞬間移動をかましてくれた。
 おかげでエドは、気づいたら暗い洞窟の中から強風がごうごうと唸りを上げる天空にぽつんと浮かんでいた。ロイに抱えられてはいたけれど。さすがに反射的にはっしとしがみついたら、ははは、と楽しげに笑われて腹が立つ。どうもこのイフリートは性格が…性格がイイ、らしい。
 こんなのとよくつるんでたよ王様は、と思い、エドはマースのことを思う。本当は彼が冒険王だったというならもっとたくさんその時の話を聞かせてほしかった。本や伝承は所詮伝聞でしかない。それはそれで得るものもあるのだけれど、その当事者が語る事実の足元にも及ばない。真実は小説より奇であり、百聞は一見にしかず、なのだ。
「空を飛びたいんじゃなかったのか? 回りを見なくていいのか?」
 促す声がむかつく、と思ったが、エドは恐る恐る目を開けて回りを見てみた。一面が薄青い世界。足元に雲が見える。あまりの光景に息を呑んでいたら、しがみついた体を離される。
「え?」
 一瞬浮いた体が急降下を始めれば悲鳴も喉につまって窒息してしまいそうだった。だが雲の下まで落ちたところで、再びロイに捕まえられ、降下は止まる。しばらくは鼓動が大きくて息も苦しくて何も言えず、ロイにしがみつくしか出来なかった。
「どうだ? 空を飛ぶ気分は」
「………っ」
 飛んだのではなく落ちたというか落とされたんじゃないか、と批難することは出来なかった。あまりのことに口が開けられなかったのだ。ロイはひどい悪戯をしてからかってくれた割に、手つきだけは案外優しくエドの背中を何度も撫でてはおろしてくれた。もしかしたら子供好きなのかもしれない、と考えてから、それはちょっと違うかもしれないな、と思い直す。第一自分は子供ではない。
「…あんた、お、王様にも、こん、こんな、こと、して、たの、か」
 ようやく声が出るようになって問いかけたら、「いや?」とあっさり返されてまた腹が立った。だが。
「あいつは君ほど可愛くはなかった、面白い奴ではあったが」
「…は?」
「私に魔法の絨毯を出させた時だって、あいつは君とは全然違ったよ。こともあろうにあの馬鹿は、イフリートを挑発したんだ」
「え?」
 エドはロイの胸から少しだけ顔を上げて「どういうことだ」という目を向ける。
「疲れたからぱあっと飛んで帰りたいけど、無理だよなあ、そうだよな出来るわけないよないやすまない、俺が悪かった忘れてくれ、…そう言われてつい腹が立ってな、気がついたら奴の掌の上で転がされていた。だが腹は立たなかったな、不思議と」
 エドはマースの顔を思い出しながら、なるほど王様ともなると若いうちから知恵が回ったんだな、と妙に感心してしまった。エドは錬金術や知識なら負ける気がしないが、そういった知恵の回し方はそこまで得意ではない。今までそうしたことが必要ではなかったというのが一番大きいが。
「だから君に見せるのは君にしか見せないことだ。当たり前だろう。エドとマースは別の人間なんだ」
 どちらも私の主だということは同じだとしても、いやあいつはもう主ではないが、と呟くロイに、エドは疲れやすっきりしない気持ちが晴れるのを感じた。
 とうとう、伝説のイフリートに辿り着いた。辿り着いただけではない、今はエドが彼の主なのだ。相棒なのだ。
 これからどこへだっていける。まだエドは、幼いといっていいほどに若く、やりたいことも行きたい場所も山ほどある。
「さて、エド、これからやりたいことは?」
 主と呼んでも自分をからかって自分で遊ぶ悪い癖を持っているイフリートだが、それでもこうしてエドの望みを叶える気はあるようで(長い長い寿命を持つイフリートだから、単なる暇つぶしなのかもしれないが)問いかける声は案外真面目なものだった。
 だからエドも満面の笑みを浮かべてロイにしがみつき、願いを口にする。
「まずは世界一周! ああ、でも、絨毯とか、なんかこう、楽に移動できるのだとすごくいいんだけど」
 ずっと抱えられているのは不便だとまずはそれを訴えたら、私は構わないんだがなあ、とぼやきながらも指を弾いて絨毯を出してくれた。エドは、その上にぽんと放り出される。腰を落ち着けることが出来てほっとしたら、願いに反して体が眠気を訴えてきた。
「一眠りしてからにした方がいいんじゃないか?」
 そんな少年をイフリートはからかってくれたが、エドは無視した。
 ――本当に高速で世界中の昼から夜をぐるりと回り始めると、そのことを後悔することになるのだけれど。

作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ