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Alf Laylar wa Laylah

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「親父はそれが嫌で逃げ回ってたんだと思うけど、母さんと会って、あの街に留まるんだったらいいっていって残ってる。ちゃんと話したわけじゃないけど、多分そうなんだと思う。それに領主も、街を守る盾がなくなるのは嫌だから認めてる」
 でも、とエドは一度唇を湿らせてから続きを聞かせた。
「オレかアル…弟は都に行かなくちゃいけない。領主は多分そう考えてる、錬金術は人が使える魔法で、錬金術師はジンみたいにどうにかして探してきたり、頼みを聞いてもらわなくちゃいけない相手じゃないから。領主が都にもっていくのには、これ以上ない貢物ってわけ。別に自惚れるわけじゃないけど、錬金術師自体があんまりその辺にいるもんじゃないからさ、重宝はされるんだ、これでも」
『…おまえが、戦争の道具にされるっていうのか!』
 マースの声にははっきりとした嫌悪があった。エドは曖昧に笑う。今となってみればこのジンは確かにかつての冒険王なのだろうと思えるようになっていた。
「今は戦争やってないから、今はないと思うけど。小競り合いなんてしょっちゅうだし、王様っていうのは、普通、自分が一番安全じゃないと不安なもんなんだ。あんたは違ったかもしれないけど」
 王の懐刀。一生を王宮に閉じ込められて過ごす籠の鳥。それは役目は違えど後宮の女たちと変わらない。
「…でも領主だって親父一人きりじゃいつか先が心配だから、オレがいなくなって、すぐに弟を連れてくなんてことはないと思う。それに、母さんは一応領主の親戚だし」
 だからオレは飛び出してきたんだ、と少年は肩を竦めた。
「世界も何も知らなくて一生閉じ込められるなんて真っ平だよ。そりゃ王宮や領主の館だったら暮らしに困ることはないし、本もいっぱいあるけど、オレはもっといろんなことが知りたいんだ」
 ロイはマースと目を見合わせた後、気まずげに頭をかいて、それからエドに向き直った。少しだけ膝を折ったのが身長差を感じさせて気に食わないが、怒るほどのことではなかった。第一、ロイはエドを馬鹿にしているのではない。
「…それを先に言え」
「え?」
 ロイの大きな手がエドの頭の上に置かれた。彼もまた、エドの頭を撫でてくれた。少し不慣れな手つきだったが。
「夢だの冒険だのは私にはよくわからないが、自由を求める気持ちならわからなくもない」
「うわっ」
 エドの頭から手をどけて、ロイは、少年の年齢にしては少し小柄な体を抱き上げた。突然上がった視界にエドは目を白黒させる。
「さあ、望みを聞かせてくれ。ああ、ついでに、本当の名前も聞かせてくれるとありがたいな。そうしないと本当の契約ができないから」
「本当のって、」
 エドは眉をひそめた。ではさっきの、契約終了と言われたのは何だったのだろう。
『さっきのは仮契約なんだよ、エド』
「か、仮契約?」
『三つの願いだけを叶える、まあ、お試し契約っていうか?』
「ず、ずりぃ、何も言ってなかったじゃねーか!」
「仕方ないだろう、いくらなんでもいきなり本契約なんて、それこそ冒険だ」
 ロイはエドを片手で抱え、片手を地面に向けて動かした。途端に地面には円で囲まれた紋様が浮かび上がる。それは光というよりも焔に見えた。イフリートらしいというべきなのかどうかはまだエドにはわからない。
 男は、浮かび上がったその円陣の中心にエドを下ろした。
「さあ、誓いを。君の本名は?」
「本名って…だってオレ皆にエドって呼ばれてて、母さんもそういってて…」
 それが本名ではないと言われても、俄かには何が本当の名前なのかわからずエドは眉を曇らせるしかない。それとも成人の儀式をしていないから本名ではないということなのだろうか。
『うーん、おまえ、他に名前ほんとに聞いたことないか? もしかしたら親が魔法避けにおまえ自身にも本当の名前を教えてないのかもしれないぞ? そんだけ力のある錬金術師だったら保険にそう考えててもおかしくない』
 助け舟はマースから出された。親、と言われてエドの頭に閃いたものがある。父親だけが時折呼ぶ、エドのもう少し長い名前だ。名前より長い愛称をつけてあの父親は本当に変わっていると思っていたのだが、そうではなかったのかもしれない。
「…エドワード。エドワード・エルリック…」
 恐る恐る口にすれば、ぱあっと円陣、魔方陣はひときわ光を強くして、そして消えた。消える瞬間ぶわっと熱のような、力の塊がエドの中に押し寄せてくるような感覚があった。
 驚いて目を開ければ、そこにロイが跪いていた。
 まるで、主人に対する従者のように。
「我が主、エドワード。私、ロイ・マスタングは君に従うことを誓おう。我が焔を以って証と為す」
「…っ」
 エドの、マースが宿る指環とは逆の手の薬指にぐるんと焔が巻きついて、思わず息を呑んだがすぐにそれは幻のように消えた。消えたが、消えた後にはくっきりと焔の揺らめきに似た模様の痕が残されていた。呪印のようなものかもしれないが、言葉をそのままに捕らえるのならこれが「契約の証」なのだろう。
『おめでとさん、エド』
「うん…なんか、…夢みたいだ」
 さすがにぼんやりとして呟けば、ははは、と笑うマースの声がどこか遠い。
「おっさん?」
『ああ、ほんとによかった、最後にこれが見られて』
「最後って、…そうだ、限界って!」
 エドは慌てて指環を見た。石には、細かくひびが入っていた。慌てて癒すように触れるけれど、何の足しにもなりそうにない。縋るように思わずロイを見上げたら、彼は困ったように笑って、そっとエドの指からその古い指環を抜き取った。
「気の弱いことを言って主を泣かせてくれるな、友よ。…エド、これは私が預かろう。なに、また魔力を溜めればまだ永らえることは出来るだろう」
「ほんとか?」
『…は、いい引き際だったのに、邪魔してくれちゃって』
「これで消えようというのは都合がよすぎるぞ、マース。折角ジンになったんだ、もう少し長生きしてみればいい」
 マースの声は弱くなっていたが、とりあえず消えてしまうわけではないらしい。エドはほっと息を吐き出した。
「…あれ?」
 息を吐いたら、張り詰めていたものも一緒に抜けてしまったらしい。がくりと膝が落ちて、情けないことにへたりこんでしまった。ロイは一瞬軽く目を見開いたものの、指環を握りこんだ後どこかへしまってしまうと(エドの目には消えたようにしか見えなかったけれど)少年の腕を持ち上げ、そのまま抱え上げてくれた。
「しっかりしてくれ、主」
「ちょ、ちょっと疲れたんだ、それだけだよ!」
 照れくさくて意地を張れば、そうか、それはすまない、とイフリートは口先で謝った。こいつ、と思ったがエドは唇を引き結んでロイの肩を掴んだ。
 今はとにかく、ずっと願っていたことのひとつを叶えてほしい。
「なあ、魔法の絨毯って、乗ってみたいんだけど」
「絨毯? この暑いのに? 君は見た目より寒がりなのか」
「〜〜〜〜〜〜〜っ…」
 エドは頭をかきむしりたい衝動に駆られたが、堪えて願いを重ねた。
「そうじゃなくて、空を飛んでみたいの!」
「ああ、なんだ、そんなことか」
「え? って、え、えええええええ!」
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ