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Alf Laylar wa Laylah

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 そして、それと入れ違いになるように、もう一人の息子の許へ、白い鳥の形をしたジンが訪ねてきた。訪ねてきたというか、まあ、少年の前に舞い降りたわけだが。幸いなことに、室内で。
 最初は鳥かと思ったアルだったが、すぐに違うことがわかり、はっとした。鷹に似たその白い鳥は、きれいな瞳を真っ直ぐにアルに向け、はっきりとした言葉で告げた。
「私は主の使いできました」
「しゃべ…」
 唖然として言葉を失う少年に、鷹は続けた。
「エドワードは、あなたのお兄さんは、無事。家族に伝えてほしいといっていたわ」
 口調と声のトーンが女性のものだと気づいたのは、その時だった。アルは、兄ほどではないがやはり同じほどにある好奇心に突き動かされ、まじまじと鷹を見つめた。鷹のジンは瞬きもしなかった。
「すごい…きれいなジン」
 無意識のような呟きに、鷹は目を瞬かせた、ように思えた。実際には人間のような動きはしないので、瞬くというのとは違うのかもしれないが。
「それはありがとう」
「え? あ、いや、でも…はい。いいえ、どういたしまして」
 鷹と話している所なんて見られたらボク呪い師の所へ連れて行かれちゃうかもなあ、と思いながらも、アルは鷹から目が離せなかった。
「では、伝えたわ。失礼」
「まって!」
 飛び立とうとする鷹を、アルは引き止めていた。鷹のジンは律儀にも少年の頼みを聞いてくれて、飛び立とうとした翼を収める。
「ええと、あの、あのですね。少し、聞かせてもらえませんか、その、ジンのこととか、あ、無理にはいいんです、あと言いたくないことは言わなくて勿論いいんですけど、でもですね、あの、なんというか」
 兄のことを常々変わっていると思っているアルだったが、こうなってみると自分も同じ血脈なのだということを自覚しないわけに行かなかった。今は目の前のジンに色々なことを尋ねてみたかった。それでどうしようというのでもない。ただ、目の前に不思議なことがあって、それを放って置けるほどにアルはまだ大人ではなかった。
 鷹はくるりと瞳を動かした後、ばさりと翼を収めなおしてもう一度アルに向き直った。
「わかりました。…でもその前に水を一杯いただけるかしら」
「え、あ、はい!」
 慌てて水を取りに行くアルだったが、部屋を出る刹那一度振り返って、「行かないでくださいね!」と念を押すことを忘れなかった。
「…しっかりしてるのね」
 そんな少年に、鷹はぽつりと呟き、そして頭を軽く振った。途端、白い光を纏ったまま、鷹は形を変えていく。大きく、そして、鳥ではないものに。

「…え?」
 アルが部屋に戻ると、そこには鷹はいなかった。
 しかし、別のものがいた。アルより年上の、若い女性だ。アルよりも薄い、白金の髪を綺麗に結い上げた、妙齢の美女である。
「お帰りなさい。悪いのだけど、水を頂けるかしら」
 彼女の口から零れた音声は、さきほどの鷹が発した声紋とまるで同じだった。ということは、先ほどの鷹のジンが今の目の前にいる女性だということだろうか。一体どちらが本当の姿なのだろうか。
 絶句する少年に、女性は微かに笑いかけた。アルははっと我に返ると、慌てて水を女性に差し出す。ありがとう、と彼女は碗に満たされた水を受け取った。
 ジンも喉が渇くんだ、とアルは感心したように彼女を見つめる。
「…そんなに見つめられると照れるわね」
「えっ、あ、すいません…」
 年上の女性にそんな風に言われたら困ってしまう。たとえ相手が人間ではなかったとしてもだ。
「…この水は、どの井戸から?」
 上品に口に水を含んだ後、女性はおもむろに尋ねた。アルは、え、うちの井戸ですけど…、と恐る恐る答えた。そう、と女性は思案げに頷いて、そうしてから、静かに立ち上がった。
「街の井戸とは別のものを引いているの?」
「え、ええ、そうです、父が…」
「あなたのお父さん?」
「ええ、あの、父は錬金術師で…、っ?」
 女性は腕を軽く動かした。微かな風の流れが起こり、白い光が彼女を包む。眩しさに目を閉じて、再び開いた時には、アルの肩の上には白い鷹がいた。そして女性は消えていた。
「………………」
 あまりのことに言葉を失っていると、鷹がアルの頭側の翼を軽く動かした。ちょうど人間だったら頬をうたれるような格好になって、アルは我に返る。
「その井戸を、見せてもらえないかしら」
「え、ええ、あの、…それはいいんですけど、その前に聞かせてもらえますか?」
「何を?」
 答えるとは言わずに、鷹は問いで返した。
「まずはそうですね、あなたを何と呼べばいいですか? 話すのに不便で」
「……リザでいいわ」
 鷹は一瞬驚いたような気配を見せたが、簡潔にそう答えた。渡された女性の名前を、リザさん、とアルは確認するように繰り返す。
「ありがとうございます。ええと、あともうひとつ、いいですか」
「なに」
「鷹とさっきのお姉さんと、どっちが本当のリザさんなんですか?」
「………」
 今度はすぐには返答がなかった。だが顔を背けられもしなかったので、アルも黙って鷹を覗き込んでいた。
 やがて、幾許かの後。
「あなたは、どちらがいいと思う?」
 質問が逆に返されて、少年は面食らった。面食らったが、きちんと答えは考えた。
「さあ…鷹も綺麗でかっこいいと思うんですけど、お姉さんも美人でした」
 素直というか大物すぎる回答に、鷹はまた間を置いて、そしてこう答える。幾らか面白がっているようにも聞こえた。
「あなたは大物だわ、きっと」
「よく言われます」
 アルの答えに、鷹のジンは笑ったようだった。

 井戸に案内すれば、鷹はアルの肩から音もなく飛び立ち、井戸の上を旋回した。そうして、驚くほど肩に負担がなかったことをアルは改めて感じた。肩に止まっている間も、全く重みを感じさせなかった。やはりジンなのだろう。まあ、鷹が人間になったり、人間が鷹になったりするような存在がジンでない方が驚くのだが。
 リザと名乗った鷹は数回井戸の上を旋回した後、井戸の煉瓦に止まった。そしてじっと井戸の底を見ている。なんだろうか、とアルが眉をひそめたところで、リザは顔を上げた。そして問う。
「この井戸は、あなたのお父さんが掘ったの?」
「うん、掘ったというか…、掘ったんだと思います。ボクも生まれる前のことだから、あんまりよくわからないんだけど」
「……あなたの家族は、いつもこの井戸の水を飲んでいるの?」
「そうですけど…何かまずいものがあるんですか?」
 とりあえず日常的に健康を損なったことはないが、何かあるというのだろうか。ここまで問い質されると気になるのが人情だ。
 しかし、鷹は考え込んでしまって返事をくれそうにない。困ったな、と思っていたら、背中から母の声がした。ぎょっとして鷹を隠そうとしたが、よく考えたら鳥の一羽くらいはごまかしてしまえるのだと気づいて、平静を装うべく深呼吸をした。そして、ここにいるよ、と母親に返す。
「ああ、アル、井戸にいたのね」
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ