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Alf Laylar wa Laylah

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「父さん、気づいてたの?」
 アルは再び目を丸くした。何も言わなかったのに、彼は気づいていたのだろうか。父は、濃い金色の目を細めて笑った。
「俺は、これでも結構長く生きてるからな」
 額面どおりに受け取るなら、それは息子たちより長生きをしているから、という意味だっただろうが、何となくアルにはその時違う意味に聞こえた。漠然と、もっと永い時間のことを言っているような…。だが、それは直感に過ぎず、アルはその感覚を追い求めるようなことはしなかった。それが兄と弟の違いでもある。
 怪訝そうにしながらも問い質さない下の弟の堅実さに、父親はただわずかに目を細めたのみで、肩をすくめる。口にしたのは今後のことだった。
「まあ、いいさ。トリシャには俺からごまかしておくさ」
「父さん、…なんだか今日はいつもの父さんじゃないみたいだよ」
「ひどいやつだな、まったく」
 苦笑して、父は母のもとへと歩き出した。その背中を見つめながら、父もまた特殊なのだな、ということを息子はしみじみと感じていた。兄はこの父の血を色濃く継いでいる、と。

 街の人間もまた、エドがいなくなって二十日も経つ頃には、今度は随分長いんじゃないか、と噂するようになっていた。だがそれらには、ホーエンハイム、錬金術師が、なに、俺の古い知り合いが尋ねてきたんで、一緒に旅に出たのさ、となんでもないことのように答えていた。なるほど、錬金術師の旧友というならやはり錬金術師か、もしくはそれに類するものだろう。どうやら上の息子は術師としての修行に出たのだな、と彼らは皆納得してしまった。領主でさえも。いや、領主には期待もあったかもしれない。腕を上げて素晴らしい術師となってエドが帰ってくれば、献上品としても箔がつく。何も今焦って差し出すよりも、その方がずっと自分の身分のためにはよいことだ…、ホーエンハイムは領主のその心の動きを完璧に見抜いて、巧みに嘘を信じ込ませたのだった。その手腕には、普段は母に頭が上がらないだけの情けない父だが、決めるところは決めるんだな、とアルも大いに感心したものだった。

 ――かくして、少年の冒険の旅は始まったのだ。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ