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Alf Laylar wa Laylah

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 エドは深く息を吸って吐いてから、静かに指環に手を伸ばした。水に触れ、その中心の指環に触れようとした瞬間、ただ溢れるように湧いていた水が突如はじけた。飛沫に目を眇めた瞬間、指環は光を放ち、ぶわっと煙が浮かんだ。
「――!」
 はっと目を瞠るエドの前で煙は「何か」を形どる。かかった時間は長いものではなかっただろう。
 ――顕れたのは、人間の上半身。腹から下は煙のまま繋がっていた。水の中の指環と。
『…人間か?』
「…っ、そうだ、…あんたは、指環のジンか?!」
 声が震えないようにとエドは何度も心を強く叱咤しなければならなかったものだ。
『まあ、そう呼ぶ奴もいるな』
 しかし何を考えているやら、腕組みしたその煙の男、恐らくはジンであろうその男は、愉快そうに目を細めてそんなことを口にした。顎に髭のある、人間で言えば三十代くらいの顔をした男である。
『だが、俺がそれだったとして、おまえさんどうするってんだ?』
 淡々と問われ、エドはぐっと拳を握った。覚悟を試されていると感じた。
「オレはっ…」
 息を吸い込んで、目をいっぱいに見開いて、エドは腹の底から声を出した。
「オレは、冒険王にも出来なかった冒険をするんだ!」
『…冒険王にも出来なかった、冒険?』
 ジンはますます愉快げに目を細めてきた。エドは握った拳の内側に汗を覚えながら、それでも退かずに口を開いた。
「そうだ。オレは全部が知りたい。この世の果ても見てみたいし、あるっていうなら、ジャハンナムだって行ってやる!」
 は、とジンは驚いたように目を丸くし、次の瞬間盛大に笑い出した。
「な、にがおかしい!?」
 気色ばんだエドに、ジンは腹を抱えながら「わりぃわりぃ」と言いながら笑いをなんとか引っ込めた。エドの機嫌は当然よろしくない。
『…あー、すまねえな、でもあんまり驚いたもんでよ』
「なんでだよ」
 ぶすっと答えれば、妙に人間くさいジンは目を細めこう言った。
『ジン相手に、ジャハンナムだって行ってやる、…なんつー人間、しかも子供なんて想像してなかったんでね、驚いたんだ』
「オッ、オレは子供じゃねえ! もう十五だ!」
 顔を赤くして怒鳴れば、またジンは大げさに笑った。それこそ煙で出来た体が揺れるくらいに。
『そうかあ、十五か…そりゃ確かに冒険始めるにゃあ、早すぎるってこともねえな』
 思案深げに目を細められ、エドは何となく口ごもってしまう。どうも調子が狂って仕方がない。それともこのなつっこさこそがこの目の前のジンの武器なのだろうか?
『…そんで? おまえさんの望みはわかったが、俺はそんな力の強ぇジンじゃねえぞ?』
 ん、と重ねて問われ、エドは表情を改めた。
「冒険王の伝承では、指環のジンが沙漠のどこかにいる強いジンの所に王様を案内して相棒になってもらったってなってた。だから、俺は指環のジンを探してたんだ」
『なるほどね。俺は踏み台か』
 ふふん、と笑われ、エドは詰まってしまった。そう言われてしまうとその通りではあるのだが、だが相手はジンだ。その通りと認めてしまって逆鱗に触れたりはしないだろうか、とさすがにエドも考えた。
 だが、心配は杞憂に終わる。
『ふん、気に入ったね、そうはいっても俺を探しに来る奴だって今まで誰もいなかったんだ』
「え、そうなのか?」
 思わず目を見開いて問いかけたら、そうなんだ、これがな、実に退屈だった、とジンは大きく溜息までついてくれる。ぽかんとそんな中空のジンを見つめる少年に、髭の男は豪快に笑いかけた。
『いいぜ』
「え?」
『踏み台になってやろうっていうんだよ。俺も退屈してたしな』
「…、…え?!」
 エドは目を皿のように見開いて、素っ頓狂な声を上げてしまった。
『なんだ、嫌なのか?』
 そんなわけない、と口を開くことさえ驚きのせいで出来ず、エドはただ、首をぶんぶんと振って否定を伝えた。
『なら、決まりだな。よろしく、相棒』
 そう笑って、ジンは姿を消し、その際に爆発的に上がった水蒸気に目をつぶったエドが再び目を開けた時には、指環が既にその指に勝手にはまっていた。
 それがつまりはジンがエドを認めたということなのか、と感慨深く思いながら、これで本当にイフリートを探す旅に出られるのだ、と背中が期待で震えたのは、ほんの昨日のことのように鮮やかな記憶だった。

「暗いな…」
 マースと出会った際の全てを思い出す頃には、エドは洞窟の入り口に降り立っていた。
 昼間でさえ、崖の下の方にあるその洞窟は暗かった。それでも入口にはかろうじて日光が差し込んでいたが、一歩奥へ入ったら何も見えなさそうだった。エドはさすがに最初の一歩を踏みとどまる。大きく息を吸って、長くゆっくりと吐き出す。
『おい、エド』
 呼んでもいないのに声がした。エドは指環の石を見る。黒っぽい石は意思を持つように(実際にそれはその通りなのだが)光る。エドは小さく頷いて、指先で石を擦った。
『はっはぁ、これは俺の出番だろ』
「頼む」
 信頼をこめて頷けば、浮かび上がった指環のジン、マースは親指を立てて頼もしく笑う。
 そして踏み出した一歩は、もしかしたらそれこそが本当の旅の始まりだったのかもしれないと後になり少年が感慨深く思い出すことになる、記念的なものだった。勿論その時には夢にもそんなことは思わなかった。多くの冒険者たちが今までの歴史の中でそうであったように。

 洞窟の中はやはり暗かったが、そこは腐ってもジン。マースの魔法でエドはとりあえす足元を照らす分の灯りには困らずに済んだ。
『俺の力じゃあおまえさんの周りをちょっとばかし照らすのが限度なんだわ。すまねえなあ』
 人間に謝るジンなんて前代未聞。エドは素直に噴出して、全然、と大きく首を振った。
 洞窟内は割合平坦でそれはありがたかったものの、やはり石が転がっていたり毒虫がいたりと何の障害もないわけではないから、足元が明るいだけでもありがたかったのは本当なのだ。それに、中へ入ってからはわずかに下りの傾斜が続いており、転げ落ちないためにはやはり灯りは大事だった。そもそも暗い中にずっといるように人間は出来ていない。
 傾斜が下りである以上、エドは今地底へ向かっていることになる。どの程度の深さまで洞窟が続いているかはわからなかったが、しばらく歩くと洞窟内の気温は上がってきていた。エドは頭の中で地図を開く。このあたりに火山はない。だが、あまりに地熱が高いとなると警戒が必要だった。辿り着いたら溶岩に溶かされましたではあまりに情けない。
「なあ、おっさん」
 エドは適当な石に腰掛けて休憩を取ることにし、相棒に質問することにした。
『おっさんじゃなくてお兄さんと呼べないのか? って、まあいいか…なんだ?』
「オレ達はどこに向かってんだ…?」
 マースは呆れたような顔をした。
『んなの、決まってんだろ? おまえがずっと会いたがってた奴だろうに』
「そうだけど、そういうことじゃなくてさ。なんでこんなにこの洞窟暑いんだ? 王様のジンに会う前に焼け死ぬのはゴメンだぜ」
 ああ、とマースは額を打った。なんだ、と首を傾げるエドの前でマースは話し出す。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ