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Alf Laylar wa Laylah

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『奴はなんせ、おまえさんも言ったようにイフリートだ。イフリートが焔の魔法に長けてるってのはおまえも知ってんだろ?』
「…本では読んだけど」
『中でもそいつはスバ抜けてんだ。だからさ、それを封じたこの場所は火山でもねぇのにこんなにクソ暑いし、…ほっといたらここら一帯火山地帯になっちまうかもなあ』
「…はっ?」
 エドは顎が落ちるかと思った。今このジンはさらりと何かとんでもないことを言いはしなかったかと。
『ま、そうなっちまったら奴に会うのは難しかった。よかったな、エド、おまえ今の時代に生まれてて!』
 それは喜ぶ所なのか、とエドは思わないでもなかったが、この風変わりなジンとやりあってもしょうがない。大体こののらりくらりとしたジンに口で敵う気はあまりしなかった。
「…そりゃ、ありがとよ」
 力なく笑ってエドは額にじんわりとにじんだ汗をぬぐった。暑さはイフリートに近づいている証拠だというのなら、受けて立つ以外にない。
 少年は立ち上がり、荷物を肩に揺すり上げた。その背中に負う荷物は少なかったが、これは指環のジンのささやかな魔法の恩恵の一つである。マースは、エドの荷物をそれぞれ力の限り小さくしてくれていたのだ。それらは使う時に大きく出来る仕掛けになっている。一番ありがたかったのは水筒を小さくしてくれたことだ。沙漠でもっとも貴重な財産は水である。また、補足するなら、どの道具にもエドの錬金術が駆使され、機能的かつ長寿命になっていたので彼の旅装はその時代に考えられるべくもない先進的なものだった。だからこの洞窟に辿り着くのがもう少し先立ったとしても、エドは十分に耐えていけただろう。物理的には。
 暗い中を歩いているのだから日の高さで時間を計ることはできない。だが少年は完全な体内時計を持っていた。ここまでの旅と経験に培われたものである。とはいえやはり長時間暗闇にいるのは精神的に堪える。まだ相棒がいるから耐えられる範囲だが、それでも疲労は平地を行くより深かった。計算上はもう少し歩きたい、という所でエドが腰を下ろしたのもそのためだ。
 大きくしてもらった寝袋にエドはもぐりこんだ。暖を取る必要は全くなかったが、何がいて、何が落ちているかわからない地面に寝転がるのは危険である。それに地面の方が暑すぎて眠るどころではない。
「…なあ、」
 呼びかければジンはなんだ、と答えてくれる。
「王様のジンは、なんで封印してくれなんて王様に言ったんだろう」
『…さあなあ。なんでだろうな。エドはなんでだと思う』
 エドは目を閉じて暫し考えた。昔から考えていたけれど、いつもこれだという答えが思い浮かばない。
「…皆は、王様がもう冒険をしないから、王様になったからだっていうんだ」
『おまえは違うと思うんだな』
 エドはまた暫く沈黙した。そして、ゆっくりと考え考え言葉を紡ぐ。
「うん、だって、なんかそれって違うと思う」
『なんか、違う?』
 ジンは笑ったようだった。だがそれはからかうようなものではなくて、子供を宥める大人のような、穏やかな笑い方だった。
「うん。…オレ、最初思ったんだ。ジンって案外人間っぽいっていうか、寂しがりなのかなって」
『寂しがり、寂しがりかあ。斬新な意見だ』
「悪かったな、皆変だっていうよ、オレのことは」
『誰も変だなんて言ってないさ。新鮮だって褒めたんじゃねえか』
「新鮮?」
 エドは閉じていた目を開いた。ジンの顔は見つけられなかった。石に戻って声だけを寄越しているのだろう。
『そうだ。エドは面白いし、イイ奴だ。オレは好きだぜ、多分あいつもそうなるさ』
 エドは瞬きして頭を軽く動かした。
「あんた、そういや王様のジンのこと知ってんだよな。友達なの?」
 友達、といえばマースは一瞬驚いたようだったが、すぐに笑った。
『そうだな、あいつとは友達だぜ』
「なあ、そういえば昔話ではあんたのことってちょっとしか出てこない。あんたも王様のジンだったのに、…あんたは最後まで王様の傍にいたのか?」
 不思議に思ってはいたけれど聞いたことのなかったことをエドは口にした。変な話だが今までそれについて聞く機会はなかったのだ。
『ま、それについては、おいおい、な。それよりさっきの話を聞かせてくれ、なんでエドは寂しがりなんて思ったんだ?』
「なんだよ、はぐらかすなよな。ほんと今度ちゃんと話せよ? …寂しがりって思ったのはさ、…置いてかれたくなかったのかなって思ったから。だからそうなる前に別れたのかなって思ったんだよ」
『置いていかれるのがいや?』
「だってそうだろ、ジンは年とらない…いやとるのかも知んないけど、少なくとも人間よりずっと長いんだろ、寿命は」
『そうさなあ、短くはねえな』
「だったらさ、絶対置いてかれるじゃんか。王様がいなくなってもジンはずっとひとりで王様のこと思い出すんだ。一番の友達だったのに、あっという間に一人になっちまうんだ。でもそういうの思うのって、なんか人間ぽいっていうか…、ジンが人間みたくそんなの思うかどうかわかんないけど、もしそうだったら、ジンって、皆が思ってるのとか、本に書いてあるのとかと違って、もっと…感情とか人間と近くて、ひとなつっこくて…寂しがりなのかなって思ったんだ」
 うまくいえないけど、と早口で付け加えてエドは目を閉じた。
『…エドはイイ奴だな』
 マースはもう一度、今度はもう少し穏やかな言い方でそう言った。
「よせよ。そんなんじゃねえし。…寂しいのってでも別に、そんなに怖いことでも悪いことでもねえんだけどな。ジンは他に怖いもんが多分あんまりないからわかんないんだろうな」
『寂しいのは、怖くない?』
「ん、…そりゃひとりっきりになったら心細いよ。でも、耐えられないことじゃない。それにそういう風に痛い思いをしないと、オレ達ってば馬鹿だからわかんないんだ。寂しくないってことが、どんだけ嬉しいってことかが。だからそういうの、悪いことじゃないと思う」
 エドはしっかりと目をつぶりなおした。
「なんか、喋ったら疲れた。…おやすみ」
 自分から話しかけたんじゃないか、とは言わず、指環のジンは「はいよ、おやすみ」と返事をくれた。やっぱり変なジンだ、とエドは眠りに落ちながらそう思った。けれどそのことを嫌だとは全く思わなかった。
 マースは変なジンかもしれないけれど、嫌な奴では全然ない。

 数時間の仮眠の後、エドは再び歩き始めた。気温はいまやはっきりと高い。結った髪をぐるぐると巻いて留めて、エドは肌が熱気にやられないように肌の露出した部分を布で隠した。水分は配分を考えながら取った。やはりジンの魔法によって大きさを変えてもらった魔法の水筒の存在はありがたい。これがなければ引き返すことを余儀なくされていただろう。というより、こんな深部に入ってくること自体がままならなかったに違いない。カレーズ(地下水路)をここまで引っ張るわけにも行かない。
 洞窟の壁面は熱で奇妙に変形していた。伝説の通りなら封印されているはずのジンの、それでもここまで周囲に変化を与えてしまう力の大きさにエドは胸が高鳴るのを止められなかった。そして同時に、そんなジンが果たして人間と再び友誼を結んでくれるだろうかとらしくもなく不安を覚える。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ