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ティル・ナ・ノグ

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「14年前の私が明日そこで鋼のと出会ったとして、その間の私がどこにいるかわからない。仮説の通りなら、明日一日、いや、昼くらいから明日の朝にかけてくらいどこかにいなくなるのだと…14年前の明日にいるのだろうと」
「…14年前の明日に、今の大佐が…?」
 中尉が鋭く息を飲むのがわかった。うまくやれば、その後の未来を変えることも出来るのではないか。荒唐無稽なのは今さらで、考えるくらいはしてもいいのではないかと彼女は思った。
 そんな副官の思いを感じ取ったのだろう。ロイは苦笑した。
「一応発火布と銃は携帯するが、たったひとりでどうなるものでもないだろう。それに、恐らく過去にいられるのは一日弱だ。場所もどこにいくかわからない」
「一日弱…」
 中尉は日数を繰り返した。だがそれ以上は口にしない。ロイもまた、それ以上を告げることはしない。告げたのは他のことだ。
「私も、何もかも聞いているわけではない。知っているのは、妖精事件が起こること、それに軍が関わること、それから後はあの子が考えた推論くらいだ」
「エドワードくんの推論は、どのような?」
「鋼のはこう言ったんだ。?妖精を見た人間が選ばれて連れて行かれる?」
「…それは…」
 それでは今起こっている事態をただ述べただけではないか、と中尉の表情が語っている。しかし、ロイは首を振った。
「そうじゃないんだ、中尉。妖精と呼んではいるが、いなくなった人間が同じものを見ていたかどうかはわからない、鋼のはそう言った。いや、これから言うんだが」
「同じものではない…?」
 細かい時制の話は無視して、その内容に中尉は目を瞠った。ロイは静かにそれに頷く。
「言葉でしか知らないんだ、誰も。そして、思い当たる人間がそれを見ると、妖精だ、と思い込む。そうして、見えたことにより判定され連れて行かれる…」
「妖精は、では何なんですか?」
 ロイはそこで首を振った。
「まだはっきりとはわからない。だが、それがひとつの試金石なんだろう。それに反応する人間がほしいんだ、妖精、は」
 中尉は暫し沈黙した。ロイもすぐにせかしたりはせず、一瞬沈黙を守る。
「私もはっきりとはまとめられないんだが…それぞれの事件は別個のものなんだろう、恐らく」
「別個のもの?」
「ああ。最初の姉妹の報告、個人の失踪、そして村民全員の消失。全てが別の事件なのに、妖精という奇妙なファクターが全てを繋いで、真実を隠してしまっている」
「では、何が真実なのでしょうか」
 ロイは腕組みをして答えた。
「まず最初の姉妹の報告。これは無視していいだろう。事件性の高いものではない。まあ、一部セントラルのお偉い方の中には興味のある向きもあるようだが…中尉は、常若の国というのを聞いたことがあるかね?」
 ハシバミ色が瞬きする。
「…おとぎ話ですね。妖精の国だという」
「そう。楽園のひとつだな」
 ロイは皮肉っぽく唇を歪める。
「古来より、権力者が最後に行きつく望みとは不老不死と若返りだ。馬鹿馬鹿しい限りだが、セントラルにもこれを研究している機関がある。その名前が『ティルナ・ノグ』――常若の国、というそうだぞ」
「…世の中は広いですね。大佐以上の税金泥棒がいるとは」
「…褒められては、いないな?」
「気のせいでしょう」
 中尉はにっこりと笑った。ロイは暫く物言いたげな顔で副官を見ていたが、諦めて溜息をついた。どのみち彼女に勝てる気はほとんどしなかった。…賢明である。
「肉体の若返りは細胞の活性化や複製が手段として考えられるが、とても実用などありえないレベルだ。あまり警戒する必要はないと思うんだが…」
「何かご心配でも?」
「…時間を戻す研究をしていると、発表した人間がいるんだ。その時は何を馬鹿なと、忙しかったのもあって聞きにはいかなかったんだが」
 時間、と聞いてホークアイ中尉にも閃くものがあった。
「大佐は、その機関が一連の事件に関わっている、と?」
 慎重な問いかけに、ロイは一瞬難しい顔をし、それから曖昧に首を振った。
「なんともいえない。ただ、…何となく気になるんだ」
「…わかりました。調べておきましょう」
「頼めるか」
「何を今さら。お任せください」
 中尉は頼もしく笑った。サボりは怒られるがこういうことは協力してくれるのだ。…そもそもサボりがありえないのだが。
「…リア・ファル、クラウ・ソラス、ブリューナク、ダグザの大釜…」
「大佐?」
 不意に顎を押さえて呟いた上官に、中尉は階級を以って呼びかける。すぐにロイは瞬きをして、なんでもない、と答える。
「とにかく、明日、私は消えるかもしれない」
 そして、話題は最初のものに戻った。今度はリザも黙って頷く。
「恐らく明後日には戻されているのだと思うが、明日何かあったら、その時はよろしく頼む、中尉」
「…はい」
 ロイはジャケットの襟を正しながら、普段の顔で笑いかけた。

 ――果たして、翌日。
「…本当…だったのかしら…」
 出勤せず、電話連絡も取れないロイを自宅まで捜索に向かった所、影も形も見当たらなかった。あんな作り話を言って街中に潜伏している気配もなかったし、…それに、ロイはあんな嘘はつかない。
 中尉はため息をついて、とりあえずは上官の休暇届を作成し、受理済みとした。

作品名:ティル・ナ・ノグ 作家名:スサ