ティル・ナ・ノグ
ending
「でも、本当なんだもん! あたしたち、本当に妖精さんを見たの!」
三つ違いの幼い姉妹は昔から仲がよく、どこへ行くにも一緒だった。何より小さな村のこと、遊び相手も他にあまりいなかったのも原因のひとつではあったのだろうけれど、彼女たちが仲がよかったのも本当のことだった。
そんな彼女たちが、ある日、妖精と出会った、と告げた。
あまつさえ妖精の写真を撮った、と。
大人たちは最初信じなかった。当たり前だ。だが論より証拠である。写真は目に見えるものとして、大人たちに迫った。そして程なくして、問題の写真はアメストリス中の好奇の視線にさらされることになる。観光客を当て込もうという一部の大人たちの目論見から、彼女たちの写真は最大限に利用されたのだ。そしてその結果、写真を懐疑的に見る人間、それどころかペテンだと決め付ける人間まで村にやってくるようになった。
彼女たちのお気に入りの遊び場だった湖のほとりは連日観光客や心無い「識者」に踏み荒らされ、妖精なんてとても現れそうになかった。
大衆とは飽きやすい生き物である。段々と人が減っていき、そして、あれは捏造だったのではないか、という意見が多くなってきた。
そんな中、彼女たちは手をとりあって「本当に妖精と会った」と主張した。どんなに宥めてもすかしてもけして意見を取り下げなかったのである。
夢でも見たのだろう、と結局は大人特有の都合のよさで誰もが片付けてしまうことになるその事件の真相は、結局その後も永い間解かれることがなく、謎の事件として語り継がれることになる。目撃者たちの手を離れ、神秘主義者に論じられ、小説家によって本になり、芸術家のインスピレーションをかきたて、脚本家は映画を作った。そういう風に、永い間その事件は語り継がれていくのであった。勿論、事件が表沙汰になった当初はそんな先のことまで判りはしなかったけれど。
――しかし、姉妹の晩年。妹が亡くなってしまった後、姉のチェルシーは数十年の沈黙を破ってメディアに告げたのだ。
?写真は、最後の一枚をのぞいてみんな偽物?
その時妖精事件は再び活気付く。
最後の一枚は本物、妖精には本当に会った、という彼女の言葉で。
「妖精は金色で、とても綺麗だったわ。フラン(いもうと)が最初にみつけたの。妖精は、そうね、きれいな若い女の子だった。白っぽい昔のドレスを着ていたのだけど、虹色にきらきら光ってた。とても綺麗で、そしてすごくチャーミングだったのよ。羽根? ええ…金色の光がふわりと巻きついてるみたいに見えて、あれが羽根だって、わたしもあの子もそう思ったの」
彼女たち姉妹がその時本当に何を見たのか、それはずっと、誰にも知られないまま彼女達の死後まで語り継がれていくことになる。
ある夏の、少年と少女が出会った不思議な事件など、誰も知ることがないままに。