Hello, Again1
Prologue -after the story-
「…その、」
別れの挨拶をする時、なぜかロイは口ごもった。少し言い辛そうな顔は珍しく、エドワードはただ首を傾げた。
別れといっても今生の別れではない。お互い生きているのだから会おうと思えばいくらでも手段はある。私人として、なら。
だが、それは、これからも今までのように近しく在ることを保障するものではなかった。
現実にはロイは軍に残りエドワードは軍を去り、どころか住む場所さえも離れ、しかも互いの行動半径は恐らく重ならない。エドワードがロイに会いに行くには大義名分があまりにも少なく、ロイがエドワードに会いに行くためにはあまりにも障害が多かった。そして二人は聡すぎるほどに聡く、そのことをもはや自明の事として認識している。
だから、会えないわけではないけれど相当な偶然がないと会えないだろう、ということをどちらも漠然と理解していた。
そんな、永の別れを告げる挨拶で、ロイは申し訳なさそうに、口ごもるようにして言い出した。思えば彼がエドワードに何かを願うのは出会ってから初めてのことだったかもしれない。
その逆は、簡単なことを含めれば幾度もあったのだろうけれど。
「君の、写真を」
彼は淡く笑みに似た表情でひっそりと口にした。その表情があまりにも、…他に表現する言葉が見つからないくらい、あまりにもきれいで、エドワードはつい見とれてしまっていた。そんなことをロイに思うのは初めてのことだった。
「一枚、くれないか。君の写真を」
「…別に…いいけど。なに、急に」
エドワードは何もわかっていなかった。いや、もしかしたらどこかではわかっていたのかもしれないけれど、そこを超えたら引き返せないと、それを覚っていたから気づかないことを選んだのかもしれない。
どのみち、無意識のことなんて理解できないのだが。
「…いや、…私は友達が少なくて」
「は?」
ロイは笑った。エドワードがもう一度見とれたその表情は、触れれば切れそうな切なさを孕んだ、けれども目を奪われる微笑だった。
「だから、…覚えていたくてね。だめか」
「…、なんだ、そんなの」
エドワードは、その時のエドワードは本当に何も気づいていなかった。だからいくらでも残酷になれたのだ。
「なら、一緒に撮ろうぜ。あ! でも、座ってだぞ」
気安く肩を組んでもロイは怒らなかった。ただ笑って、なんなら私だけ座ろうか、と付き合いもよく言い出したくらいで。
少しだけその黒目が潤んでいたことに、エドワードは全く気づいていなかった。
本当に、その時は何もわかっていなかったのだ。ロイの気持ちにも、自分の気持ちにも、何も。
作品名:Hello, Again1 作家名:スサ