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Hello, Again1

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 まずい、と口を押さえたエドワードに、ロイは目を細めて愉快そうに笑うのだった。

「で?」
 連れ込み宿のような雰囲気漂う場末の宿に、それでも個室だといって入って。エドワードは正直微妙この上なかったが、ロイがまるで頓着しないので気にするのもおかしいと思い、何も言わずついて行った。
 部屋に入るとやっと二人とも外套をとって、一息つく。やはり、どうしても暑かったのだ。
 そして、ふう、と喉元をくつろげるエドワードに短く切りだしたのはロイだった。
「…で、って?」
「なんでここにいる?」
 さきほど切なげにすがってきた人間と同一人物とはとても思えない顔と態度でロイは尋ねてくる。あれは幻覚だったのかも…、とエドワードはもう一度思ってしまった。それくらい違ったのである。
「………あんたってちょっとむかつくくらい皆に愛されてんだよ、ってことだよ、つまり」
「君にも?」
 真面目な顔で聞き返してくるから、エドワードは詰まってしまった。そこは冗談で流してほしい。
「…っ、ハボック少尉が! あんたが危ないとこに視察に行くからって…そんで…まあ、なんだ…、ほら、誰かさんは変なところで間が抜けてるからだな…」
 しどろもどろに言い連ねるうちに、エドワードの顔は面白いものになっていく。だが言っている本人は必死だからそんなことはわからない。…わからなかったのだが。
「…ん? …ちょっ、コラ、何笑ってんだ!」
 ふと気づけば目の前で聞いているロイは口を押さえて顔をそらし、肩を震わせている。エドワードは顔を赤くして立ちあがった。失礼にも程がある。
「い、いや、…きみ、君おかしいな…!」
 とうとう彼は口を押さえたまま突っ伏してしまった。上半身を折って、腰をおろしていたベッドに顔を突っ込んだような格好になる。
「笑うなっての!」
 エドワードは怒りのままに拳を振り上げ、ロイの隣に乗りあげると上から掴みかかろうとする。
「…っ」
 だが、それは下から阻まれてしまった。
 ロイは体を横に向け、下から腕を伸ばすと、エドワードの腕をとらえて動きを封じてしまったのだ。愉快そうに笑っていた目はそこにはなく、ただ真摯に、眩しげにエドワードを見上げていた。
 …反則だろう、とエドワードは舌打ちしたくなった。そう、こんなのは反則だ。
「…勘違いしてしまう。追いかけてきてくれるなんて思わなかったから」
「…かんちがい、って」
 エドワードの声はかすれてしまった。不安に似た感情が心臓を激しく打って、息苦しい気持ちにさせる。
「君が私のことを好きなのかと思ってしまう。…あるはずないのに」
 渡された告白はとても静かなもので、もしもここに二人きりでなかったら聞き取れなかったかもしれないくらい微かな声音によって紡がれていた。
 エドワードはただ目を瞠る。
 好きというのはとても漠然とした言葉で、たとえばシチューが好きというのとウィンリィが好きというのとでは意味が違う。けれどロイが言っているのが親愛の情に留まらないものであることは、直感的にわかってしまった。
 ――いっそ、わからなければよかったのに。
「………、」
 エドワードは何か言おうとして、何も言えないことに気付いた。言葉が何も出てこない。
「……。悪かった」
 たっぷり百も数えられるほどの時間が過ぎて、ロイが苦笑と共に謝罪を口にした。そして、やんわりとエドワードの手首を離す。けれどエドワードはどうしてかそれを冗談として流してやることができなくて、ただじっとロイを見つめていた。彼が身を起した後も。
「…はが…、いや、もう鋼のじゃないんだな」
 呼ぼうとして口ごもるロイに、エドワードはやっと表情を浮かべることができた。
「なんでもいいよ。鋼のでも」
「しかし…」
「だって、一時オレが『鋼の 』だったのはほんとのことだし。中身が変わったわけじゃないんだからさ。そりゃ、…オレはもう錬金術師じゃないけど」
「……」
 ロイは複雑そうな顔で黙り込む。こんな顔をするのは彼だけのような気がした。ひどく痛そうな顔をするのだ。まるで、自分のことのように。そんなにエドワードのことを深く思ってくれているのだと見せつけられたら、エドワードだってどうしていいかわからない。
「…しかし、それでは、」
 不意に何かに気付いた顔でロイが苦笑した。
「え?」
「それでは、…私は君の名前を呼ぶ機会をなくしてしまうな」
「……、それって、…」
 エドワードは呆然と目を瞠った。
 それではまるで、ロイがエドワードのことを名前で呼びたいようにしか聞こえない。だがそんなのはおかしくないだろうか。
「べつに、」
 半ば無意識に、エドワードは返していた。ほとんど呟くような調子で。
「べつに…名前で呼んでも、いいけど」
 尻すぼみになってしまったのは、言っている間に段々自分で恥ずかしくなったからだった。しかし、ロイはからかったりせず、瞬きした後「いいのか?」と恐る恐るの調子で尋ねるものだから、エドワードの方が恥ずかしくなってしまった。
「い、いいよ別に…そんなの、大したことじゃないじゃ、」
「エド」
 エドワードが最後まで言いきらないうちに、ロイは目を細め、嬉しそうな顔で呼んだ。その声の響きがゆっくりと耳に届くと、不覚にもエドワードは赤くなってしまった。

 なんて、声で呼ぶのだろうかと。

 たまらなくなって目を伏せてしまった。きっと今、耳まで赤くなっている自信がある。
「…エドワード」
 ロイはもう一度、大事な人の名前を呼ぶように口にした。ますますいたたまれなくなって、エドワードは目を伏せる。ひどくたまらない気持だった。居ても立っても居られない、叫び出したいような。
「わ、わかった、から」
「…? なにが」
 顔をそらしたままロイの口を押さえるべく腕を伸ばせば、やんわりと捉えられ逆に訊かれる。エドワードはさらに困ってしまって、だから、それは、とぶつぶつ呟くしかない。
「…呼んでいいけど。…別に、二人しかいないのに、話するだけでそんな呼ばなくても、いいだろ」
 ぼそぼそ釘を刺せば、ロイは腕を離しながら苦笑する。
「まあ、そうだな。…つい、嬉しくて」
「…う、嬉しいって…なんだそれ、変じゃねえの…」
 どうも調子が狂う。こんな予定ではなかったのに。今だって、でも嬉しいんだ、と笑うロイに勝てなくて、そっぽを向くしかない。
 …こういうのでもよかったのかなあ、と今は遠いハボックに問いかけても、答えなどかえってくるはずがなかった。



 ロイとエドワードが偶然闇市で再会を果たしていた頃。
 勝手に抜け出してしまったロイを探すホークアイ大尉は、相当にご立腹だった。当たり前である。昨日の今日でこれとは、あまりにも勝手に過ぎる。
「……、本当に手のかかる…!」
 いっそ憎しみさえ覚えてしまいそうだ。
 …こんな街で一人になって、ロイはまるで死にたいように思えてしまう。そんなはずはないのに、どこか今の彼には自棄のようなものが感じられて不安なのだ。
「…何もなければいいのだけど…」
 まさかエドワードとの偶然の再会に舞いあがって箍を外しているなどとは夢にも思わず、ただただホークアイ大尉は眉をひそめたのだった。

作品名:Hello, Again1 作家名:スサ