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Hello, Again1

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 そっと返せば、ようやくロイの視線が地上に戻ってきた。
「…さて。先は長いことだし、食事にしよう。君は食べたか?」
「いえ。とってまいりましょうか」
「いや、自分でとれるよ。こういうのもいいものだ。最近、皆偉い人扱いであんまり話してくれないからな」
 肩をすくめて冗談めいたことを言うと、とても将軍閣下には見えない。未だに童顔だし、何となく人懐こいところが彼にはあるので。
「まあ。皆あまり見る目がないんですね。さぼりの常習犯だって知らないんでしょう」
 ホークアイも今は砕けた口調で応じてやる。途端、うっ、と詰まるのがおかしかった。自分でもこういう顔を引き出せるということに喜びと、けれどそこにやはり気遣いがあることに悔しさを等分に抱きながら。

 今はまだ乾季ではないらしいが、それでも雨季はほぼ終わりかけらしく、翌日もよく晴れていた。しかし暑さに文句を言うこともなく、ロイは精力的に視察に当たった。途中何度か過激派の妨害を受けることもあったが、住民と接触することもできた。好意的な反応はとても受けられようはずもなかったが、誰もが覚悟していたことだ。それは恐らく、ロイが一番。




「あっっっちいいい…いってえ…」
 暑いからと袖を捲り上げてみたものの、腕に受ける陽射しはあまりに強く、エドワードは早々に袖を戻した。周りを見ればエドワードのような人間も多いが、そうでない人も多い。そうでない人というのは大体において肌が浅黒く、このあたりで元々生まれ育ったのだろうと思わせた。そんな風に人が入り乱れる街中は、全体的に雑多な感じである。
「……」
 確かに治安がいい、とは言いがたい雰囲気ではあるけれど、それでも思っていたほどではない。というか…、確かによろしくない雰囲気の人間もいるけれど、それがすべてではないし、全体を見回して活気がまったくないわけではない。つまり、皆生きることをあきらめてはいない。楽観的過ぎるかもしれないけれど、エドワードはそう思った。
 見回す限り、視察らしい一団はいない。それはそうか、と思いながらエドワードは特に気負いのない様子で人波に溶け込んでいく。目立つ外見のエドワードだが、意外と人の中に溶け込むのは不得意ではなかった。
 ロイが、…准将閣下が視察に赴くとすれば、それはこういう闇市のような場所ではないだろう。それでも、ひとりで抜け出してくる可能性も考えられないことはなかったが、さすがに鷹の目が光るのではないかとも思う。
 えらくしなびた林檎をひとつ値切って、エドワードはぶらりとあたりを探りながら歩く。こうしたことはごく自然と身についていた。勿論、旅の間に得たものだ。
「…? …!」
 さてどこに今夜の屋根を、と思っていた時だった。
 不意に視界の隅に黒髪がかすめた気がして目を瞠る。まさか顔も隠さずにいるわけが、と思いながらも足早に、逸る胸を押さえてそちらへ近づいていく。そういう時はどうしたわけか普段あれだけ軽快な足取りはなりをひそめて、まるで重い水の中を進んでいるように体が鈍くなる。早く近づきたいのに。
 不意に、視線の先、エドワードと似たりよったりの外套姿の男が振り返った。まるでエドワードの視線に答えたかのように。外套からは黒髪がこぼれ、その下の黒目はしっかりと青年の姿を捉えると、驚いたように丸くなった。
 しばし動きが止まってしまったものの、はっとしてエドワードが動く。ロイの腕を取り、ぐいぐいと人の輪から離れたところまで引っ張っていく。ロイからは何か言いたそうな気配を感じたが、今はとにかく人目のつかないところへ隠れてしまいたかった。
 …そうでもしないと、護衛もつけずにのんきにひとりでふらふらしているこの男への心配で頭がどうにかなってしまいそうだったのだ。

「…バカか、あんた」
 複雑に入り組んだ建物の影、人の気配はなかったが、それでもエドワードは声をひそめて顔を近づけた。ロイはといえば、怒るでもなく、ただ呆然とした様子でそんなエドワードを見返すばかり。さすがに居心地悪くなって、「なんだよ」と口を尖らせたら、ああ…、いや、とはっきりしない答えが返ってくる。
 そして。
「…これは夢か? 本当に、君が今ここにいるのか…?」
 何を言って、とエドワードは思ったが、ロイが冗談を言っているわけではないことにすぐ気づいて、本物だよ、とため息混じりに教えてやる。ついでにロイの手を取ると、さるがままの彼の手を自分の頬に導いてやった。
「な? あったかいだろ」
「…本当だ。…でもなぜ…」
 瞬きもせず見つめられて、エドワードはますます落ち着かない。この黒い瞳がこんなにも雄弁だということを、エドワードは知らないでいたのだと気づかされた。誰だってこんな物語る瞳で見つめられたら、絶対に落ち着かないに決まっている。
「…た、…たまたま、だ。たまたま!」
 自分で握ったロイの手を離せば、だらりと彼の手は落ちたが、しかし視線は固定されたままだった。それにしても瞬きをしない。息も詰めているように見える。まさか、そうしていなければエドワードが消えてしまうとでも思っているわけではないだろうが。
「………なんだか信じられない。本当に夢じゃないのか」
「あんたもしつこいなあ。だから、本物、だってば」
「……、」
 ロイは何か言ったようだったが、声が小さすぎて聞こえなかった。え、と顔を上げた時には、だからエドワードはぎゅっと抱きしめられていたのである。まるで展開が読めない。ロイの気持ちも、もしかしたら自分の気持ちも同様に。
「た、…じゅ、准将?」
 抱きしめ返すことも出来ず、かといって突き放すことも出来ず、エドワードはただ名前を呼ぶことしか出来ない。
「…夢でも、いいのに」
「え?」
 囁いた声があんまり哀切を帯びて響いたので、エドワードは耳を疑った。
「こんな場所で君に会うなんて、…夢ならこうしても許されるのに」
「………」
 何を言ってるんだ、と突き放すべきだった。だが、できなかった。あんまりにも寂しげだったのだ。こんな人間を放っておくなんて、普通はできない。まして普通以上の好意を持っていたならなおさらだろう。
 どうしようか、と抱きしめられたままエドワードは迷ってしまう。どうしたらいいかわからないが、このままでいるのはまずい気がする。色々な意味で。
 大体、まずこういう風に隙を見せていいわけがなかった。だから、心を鬼にして声を低める。それでもどうしても甘くなってしまったのは、きっとエドワードが兄で、ロイが今、妙な健気さとかかわいさを発揮しているせいだろう。
「あのな、そんなに夢が見たけりゃ今すぐ見せてやるけど?」
 みぞおちにぐっと拳をつきつけたら、さすがに我に返ったらしい。ロイがはっとして身を離した。その顔は以前と変わらないもので、こっちこそ夢でも見ていたんじゃないか、とエドワードは思ってしまった。
「…とにかく! なんであんたみたいのがひとりでここにいるんだ? 視察の護衛はどうしたんだよ?」 
 問い詰めるように言えば、ロイはにやりと笑った。あれ、と嫌な予感がしても遅い。
「なんで視察だと知ってる? たまたまここに来たんじゃないのか?」
「あ、」
作品名:Hello, Again1 作家名:スサ