三ムソ詰め合わせ
「馬鹿じゃない」
「…面目ない」
元姫の切れ長の目がさらに細くなって、半目になっている。呆れている目だ。正直俺は怒られるよりこっちのが辛い。ああ、ため息とかやめてくれ。
「子上殿のこと、常日頃から馬鹿だ馬鹿だと――ああ、頭がじゃないわよ、思ってたけど、ここまで馬鹿だったとはね。あら、この言い方は馬と鹿に失礼かしら。知ってる?馬って記憶力いいのよ。覚えさせた図形を二ヶ月経っても忘れてないんだから。これで少なくとも記憶力に関しては、子上殿より馬の頭のほうが優秀ということが証明されたわ。まぁ元々馬と鹿に落ち度はないんだけど」
「いや俺だって重要なことはちゃんと」
「これが重要なことじゃなくてなんなの?子上殿はまたあの地獄のような目に遭いたいとでもいうつもり?」
「うぐ」
感情的に怒鳴られているだけなら、まだなんとか逃げ道だって思い付くだろうに、元姫はあくまでも冷静に、淡々と事実を突き付けてくる。これがこいつのやっかいなところだ。こうなったらもう素直に降参するしかないじゃないか。
「悪かった…」
「その謝罪は私じゃなくて子元殿に言ってくれる?まぁ、許してくれるとはとうてい思えないけれど」
俺の珍しく殊勝な謝罪の言葉なんざ一瞬で切り捨てた元姫の視線の先には、空になった点心の器。
「海老の入った一日限定20個の品だそうね。この時間じゃもう完璧に手遅れよ。状況は前回よりかなり悪いけれど、どう弁解するつもり?知らなかったじゃ今度こそ本当に殺されるわよ」
ああ、だからため息とかやめてくれって!
「だから元姫ぃ、今度も一緒に兄上に頭を下げ」
「嫌」
「…ですよね」