三ムソ詰め合わせ
「男に生まれたかった」
誰に聞かせるわけでもない、そのまま空気に融けて消えるはずだったか細い呟きを、それでも趙雲殿は耳聡く拾い上げて、ゆっくり動かしていた足を止めて振り返って、怪訝な顔をした。
「どうして?」
「だって、どうしたって男のひとのほうが力が強いでしょう」
目の前に居るきれいな人も、男の人としては細い部類に入るのだろうけど、それでも私みたいな頼りないだけの手とは違う。
いっそ憎らしいくらい白いてのひらに、力を込めて爪を立てる。そしてまた指を広げると、丸い爪の形の通りに、赤い筋がくっきりと浮かび上がっていた。いくら剣を握ってもなかなか固くならないのだ。
そんな忌々しい両手を、いつの間にか伸ばされた固く乾いた暖かい大きなてのひらが包み込んでくれた。
「そんなことを言っては、張飛殿が悲しむよ」
凪いだ穏やかな声音で、趙雲殿は私を咎めた。
それを言われてしまうと正直、痛い。けれど。
「あなたはずるい。私が言いたいのはそんなことじゃないことくらい、分かって言っているでしょう」
「…君は本当に聡い子だよ」
呆れたような口調とは裏腹に、趙雲殿の唇は緩やかに弧を描いていた。
だってあなたは月英殿のことを一言も口にしなかったもの。
「私が羨ましいかい?星彩」
「いいえ」
あなたと対等に肩を並べられる彼らが羨ましい。