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こらぼでほすと 漢方薬3

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居間のソファに転がっていたら、看護士が定時に、薬と共に現れる。毎朝、まずは、食間の薬を飲むことからだ。おどろおどろしい液体を一気飲みする。
「あっちで、刹那が寝ているので、こちらで診察も受けます。」
 簡単な診察を受ける前に、ニールが、そう説明すると、看護士のほうも、「わかった。」 と、了承する。
「刹那の食事って頼んでいいですか? どうせなら、俺と一緒のほうがいいだろうから、俺も、あいつが起きてからでいいんですが。」
 せっかくなら、一緒のほうがいいのだが、いつ起きるかわからない刹那と付き合うのは、看護士に止められた。薬の服用時間が決まっているから、きちんと時間通りにニールのほうは食べないとマズイからだ。
 スタッフが、時間通りに、ニールの分は運んできた。食堂まで行けないこともないのだが、安静だから、と、部屋まで運んでくれる。そのスタッフに刹那の分を頼むと、すでに準備はしてあるとのことだ。
「全部食べろとは言わないけどね、ニールくん。」
 ちょこっと、じゃがいもスープを口にしただけで、スプーンを置いているニールに、看護士から注意が飛ぶ。食欲が湧かないのは、無理もないが、一口だけは、いただけない。
「動かないから腹が減らなくて。」
「そういう問題じゃない。少しでも内臓を動かさないと、回復が遅れるんだ。」
 もちろん、食後に再度、別の漢方薬は控えているが、液体だけの摂取では身体が回復しないので、看護士も厳しい。
「いつごろ、家に帰れるんですか?」
「発熱が治まらないことには、なんともだ。体調を整えてくれないと、化学療法に戻せないんだよ。」
 予定では、化学療法に戻しているはずだったのだが、無茶をしてくれたので、まだ体調が戻らない。長期間、ニールが服用すべき化学療法の薬を止めているのも、ニールの身体に負担がかかるから、看護士も八戒も、厳しい口調になってくる。
 そこへ寝室の扉が開いて、黒子猫が転がるように走ってくる。親猫がいないから慌てて探しに出て来た様子だ。
「おはよう、刹那。メシの前に、最低限、シャワーだけでも浴びろ。」
「うるさい。あんたこそ、何をしてるんだ? 食事なら、ベッドで摂れ。」
「そこまで重症じゃねぇーよ。おまえ、油臭いぞ? とりあえず、シャワーだ。」
 ほれ、と、黒子猫の背中を押して、そちらに移動させる。風呂に放り込んで、着替えも用意すると、戻ってきて、刹那の食事も運んでくれるように連絡をする。それが届く頃に、黒子猫も戻って来た。
「しっかり食べて、ラボへ行け。」
「あんたこそ、食べろ。」
「もう、ごちそーさんだ。なんなら、これも食べるか? 手付かずだから。」
 いくつか用意されている料理は、ほぼ手付かずだ。冷めているが、食べられないことはないから、それを黒子猫の前に移動すると、むっとして、黒子猫がスプーンで、親猫の目の前にあるスープを掬って口元に運ぶ。
「食え。あんたは食わないと治らない。」
「・・・おまえな。腹減ってるだろ? 俺はいいから、おまえさんが食いな。」
 ぷいっと横を向いて、そのスプーンを無視したら、黒子猫は実力行使とばかりに、親猫の横に近寄る。そして、横を向いている親猫の口にスプーンを差し込む。スープ皿も持ち上げて、何度か無理矢理飲ませて、半分はなくなった。
「ちょっ、刹那? こらっっ。」
「あんたを回復させるのが、俺のミッションだ。次は、これだ。」
 温野菜の皿を取り上げて、次はフォークで、野菜を差し出してくる。ニンジンをぎゅっと口に押し込むと、次は、ブロッコリーを突き刺している。そのフォークを取り上げて、親猫が黒子猫の口に捻じ込む。まぐまぐと咀嚼しているので、親猫は、その場から寝室へ逃走した。黒子猫は、皿とフォークを手にして、執拗に追い駆けて食わせている。
「もう無理。降参。」
「まだダメだ。」
「やめろってっっ。この利かん坊っっ。」
 ジタバタと攻防戦は続いているが、看護士は、それを鑑賞しているだけだ。大抵、ニールの看護というのは、強引に無理矢理が基本なので、刹那のやり方は正しい。あの皿ぐらい完食させてくれたら止めようと、薬の準備をする。


「刹那君、そこまで。後は、これを飲ませてくれないか? 」
 ほぼ、温野菜の皿がなくなった頃に、寝室に出向いて、看護士が皿と薬の入ったコップを取り替える。親猫は腹の上に黒子猫を載せた状態で口に詰め込まれたものを食べている最中だ。
「いつもの薬じゃないのか。」
「今、ニールくんは漢方薬の治療を受けているんだ。だから、食事の合間と食後に、こちらの薬を飲ませる。」
「了解した。ニール、起きろ。」
 親猫の身体の上から降りて、黒子猫が、傍に居座る。もぐもぐと口を動かしている親猫も、渋々、身体を起こした。
「飲み込んだら、これだ。」
「刹那さん、その前に水貰えないか? 喉がつかえてるんだが。」
「これも液体だ。これで飲み込め。」
 『吉祥富貴』のスタッフって優しいんだなあーと、ニールは、その液体を眺めて、溜め息を吐いた。自分の子猫たちは容赦がない。ティエリアもフェルトも薬に関しては厳しい。刹那は、さらに、その上を行く鬼畜ぶりだ。
「・・・それ、味見してみろ。」
 飲めるもんなら飲んでみろ、と、親猫が睨むと、黒子猫は、ごくりと飲み込んで、顔を顰めた。
「ほらな? すごいだろ? 」
「薬なら問題はない。・・・俺も一緒に飲むから、あんたも飲め。」
 同じものをくれ、と、看護士に頼んで、もうひとつ新しいコップが用意された。新しいのを、親猫に持たせて、黒子猫は口をつけたほうを、ごくごくと飲み干した。サバイバルに長けた黒子猫は、味がどうであろうと、飲み物なら飲めめてしまうらしい。
「信じられないことをするな。」
「喋ってないで飲め。」
 ぐだぐだと文句を吐いているので、黒子猫は睨みつけて、親猫の手にあるコップを口元に近づける。コップ一杯の黒い液体を目の前にして、親猫も諦めて一気に飲み干した。
「うえーまずっっ。」
 それを確認すると、ようやく水を運んでくる。それも、ごくごくと飲んで、親猫はベッドに倒れこんだ。黒子猫のほうは、苦い顔はしているが、水は飲んでいない。
「口を洗って来いよ。まずいだろ? 」
「問題ない。」
「おまえ、髪の毛洗ってないだろ? メシ食ったら、ちゃんと髪の毛も洗え。」
「わかった。あんたは寝ていろ。」
 任務完了とばかりに、黒子猫は寝室から出て行く。もう、と、親猫は脱力して起き上がる気力も湧かないらしい。
「さすが、刹那君だ。」
 拍手喝さいと看護士は手を叩いて、こちらも寝室から撤退する。毎日、ぐだぐだして食事しないから、看護士も八戒も困っていたのだが、刹那がいると、かなり楽に食べさせられることが判明した。そして、親猫も、黒子猫の猛追には敵わないらしく、なんだかんだと抵抗はするものの、言うことはきいている。


 刹那は、ラボでの用事をこなしながら、的確に親猫の世話もしている。やはりというか、わかりやすいというのか、親猫も黒子猫が世話をすると、発熱が、どんどん下がってくるのだから、現金なものだ。
作品名:こらぼでほすと 漢方薬3 作家名:篠義