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こらぼでほすと 漢方薬3

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 「ちょっと太陽にあたりたい。」と、親猫が昼食の後で庭へのサッシを開いた。微熱ぐらいまで下がってきたから、ようやく外の空気が吸いたくなった。黒子猫のほうは、看護士に確認して、許可が出ると素直についてくる。芝生の上を少し歩いて、木陰に座り込む。
「まだ暑いな? 」
「当たり前だ。あんたの身体には、よくない温度だ。」
 少し歩いただけで汗が吹き出るような気温だ。九月も中盤だというのに、暑さは、なかなか退いてくれない。
「ティエリアが宇宙に上がれって伝言置いていったぞ? 」
「まだ、上がらない。俺は確かめたいことがある。」
「見つかったのか? 」
「あんたは知らなくていい。」
 世界の歪みを見極める旅を刹那はしている。何か思うところがあるから、旅は続けると言う。それに関して、刹那は親猫に告げるつもりはない。アローズの動きが活発になってきた。それが、拡大していくのを確かめている。
「まあいいさ。けど、ティエリアからエマジェンシーコールがあったら対応しろよ? 」
「わかっている。・・・・すまない、俺の所為で、あんたに無理をさせてしまった。それは謝る。」
「いや、いいタイミングで飛び込んで来てくれた。俺が手伝える時でよかったさ。・・・・後で判明したら、俺、スタッフのみんなに、どう詫びていいのか悩んだぞ。」
 刹那に関することで、『吉祥富貴』のスタッフを東奔西走させてしまった。ちょうど、その騒ぎに関われる場所に居て、ニールとしてはよかったと思っている。後で、そんなことが判ったら、礼を言うなんて簡単な話しでは済まない。騒ぎに巻き込まれて、何かしら手伝えたので、あまり罪悪感を感じなくて済んでいるからだ。
「・・・すまない。今後は気をつける。」
「ああ、そうしてくれ。今度は、フリーダムで出るんだろ? 慎重に行動しないと、即効で、こっちに迷惑がかかるんだからな。」
「了解した。」
 木陰は風が通り抜けて、涼しいほうだが、それでも暑いものは暑い。そろそろ、引き返そうと、黒子猫は親猫の腕を引っ張る。親猫も、それに呼応して立ち上がる。
「忘れてた。おかえり、刹那。」
「ただいま、ニール。」
「よしっっ。みんなにも言ったか? 」
「ああ。」
 ゆっくりと寝室に入り、ベッドに腰を下ろす。手元のタオルで、黒子猫の汗を拭いてやる。
「冷たいものでも飲もうか? 」
「俺はいい。あんたは飲め。」
 親猫の額の汗を、黒子猫がタオルを取り上げて拭く。そして額に手を置くと、熱くはなかった。午前中は、かなり熱かったが、あまり感じられない。
「熱が下がっている。」
「おう、おまえさんの顔を見たら、元気が出て来た。・・・・無事でよかった。」
 機体のトラブルなんて、いつ起こるかわからない。突然に、動力が停止したら、海中では窒息する。そんな危険は覚悟はしているが、無事な姿で黒子猫が、傍に居ると親猫はほっとする。 黒子猫の頭をぐりぐりと撫でて、その存在を確かめて微笑む。
「当たり前だ。怪我をするようなことはしていない。水でいいのか? 」
 黒子猫は照れたところを見られたくないのか、傍を離れた。以前も心労で潰れている親猫のことを思い出して、放浪の旅に出ている自分のことも心配をかけているのだと感じた。たぶん、ダウンしていたのは、その所為もあるのだ。
「水でいい。」
 備え付けの冷蔵庫から、ミネラルウォーターを取り出して渡す。それをコクコクと飲んで返してきた。
「ちょっと昼寝するから。おまえさんは、ラボの手伝いをしてこい。」
「あんたが寝たら、行って来る。」
「そこまで監視しなくても大丈夫だ。」
「いや、あんたの体調を回復させるのが、最優先ミッションだ。」
 真面目に、黒子猫が、そう言うと、親猫はくふっと笑い声を上げた。そして、傍で覗き込んでいる黒子猫の頭を、ぐりぐりとまた撫で回す。
「もう、回復した。おまえさんの無事な顔が見られたから。刹那、勝手にいなくなるのはナシだ。世界から贖罪を求められて、初めて、俺たちは消えることができる。最後は、派手に人類の敵として葬られるぐらいでなくちゃならない。」
 組織が活動しなくなることはないが、人類がひとつに纏まって、組織に対抗できたら、マイスターは消えなくてはならない。勝手に、誰にもわからないで消えることは許されない、と、親猫が言う、と、黒子猫もこくんと頷いた。世界相手に喧嘩を吹っかけたのだ。いつか負けることもある。その時に、マイスターは負けたことが判るように消えるべきだ。そして、それは黒子猫が消える時に、親猫も消えるという意味でもある。それまでは、生存していなさい、と、暗に求められている。
「・・・ニール・・・すまない。」
「謝ることは、ひとつもない。ちゃんと戻って来たからな。」
「でも、あんたに迷惑はかけた。」
「おかんに迷惑はかけていいんだよ。気にすんな。」
 あはははは・・と、笑って、親猫は目を閉じる。黒子猫は、親猫の言葉に、柔らかな微笑を浮かべる。世界を相手に喧嘩を売った時点から、世界は敵になった。だが、親猫だけは、絶対に敵にはならない。何があろうと、親猫は刹那の側に立ち続けてくれるだろう。それがあるだけでも、刹那にとっては嬉しいことだ。



 翌日の午後に、里のお父さんことトダカが現れた。ついでに、キラとアスランも顔を出す。微熱も治まったので、のんびりと雑誌を目にしていたニールは、その一行に反応して起き上がった。
「キラパーンチッッ。」
 で、入ってきて、いきなりキラは、ニールの腹あたりに軽いパンチを決める。大した威力ではないのだが、ニールは、その勢いでベッドに倒れ込んだ。
「さらに、拳骨っっアターック。」
 倒れこんだニールに追い討ちのように、ペシペシと拳骨もする。三回ばかりやると、ニールの顔を覗きこんだ。
「ただいま、ママ。・・・なんで、やられたかわかるよね? 」
「・・・はいはい・・・お疲れさん、キラ。すまなかったな? 」
「ママに謝ってもらうことはないから。それより、身体どうなの? まだ、熱あるんじゃないの? 」
 キラは額に手を置いて、確かめているが、もう熱はない。多少、身体がだるいなーぐらいなので、ニールのほうも、「ないない。」 と、手を振っている。じじいーずや八戒の説教に比べたら、楽なものだ。
「手伝わせてすいませんでした。けど、俺も怒ってましたからね。」
 キラの向こうから、アスランも声をかけてくる。今回ばかりは、しょうがないと思うものの、ダウンさせたことについては、アスランも謝る。
「こっちこそ、刹那のことで迷惑かけた。申し訳ない、アスラン、キラ。」
 起き上がって、アスランとキラに頭を下げる。『吉祥富貴』のスタッフに、迷惑をかけたことは謝るべきだから、一々、顔を出してくれているスタッフには謝っている。
「トダカさんにも、心配をおかけしました。すいません。」
 少し離れたところで、様子を見ているトダカにも謝ると、相手は朗らかに笑っている。 「もういいよ、娘さん。散々に叱られたんだろ? 」
「・・ええ・・まあ・・・」
「それより、起きてていいのかい? 」
作品名:こらぼでほすと 漢方薬3 作家名:篠義