永遠に失われしもの 第13章
「で、何故ここに?」
セバスチャンは、赤い天幕に包まれた
シエルを抱えながら、
葬儀屋の泊まるクイリナーレホテルの
客室に立ち尽くしている。
「ロンドンの私の店の方が良かったかい?」
「いえ--それは」
--あんな埃っぽいところに、
ぼっちゃんを長い時間、
居させたくはありません--
--ともかく、ぼっちゃんのお召し替え
をご用意してあげなくては--
既に、ローマで滞在した
ディンギルテッラホテルや、
マントヴァ郊外の古城は死神やローマ警察
の手中であろう、と彼は考えていた。
--マントヴァの町屋敷か、
ヴェローナの町屋敷--
--いや、いっそシチリアか
ブルージュまで、行った方が安全か--
彼の顔をしばらく見つめていた、
銀色の髪をもつ葬儀屋は、
口を三角に開いて、笑いながら言った。
「ヒヒ、じゃ、執事君と伯爵には、ここで
ちょっとお留守番を頼むねぇ...」
「は?」
美形な、その顔に似合わない、
ぽかんとした表情をするセバスチャン。
「小生はサンカリストに戻って、
お仕事の営業をしたいのさ...
あの数々の死体を、
他の者に渡したくないからねぇ...
あれは、絶対に小生が...グヒヒ」
「しかし--」
「それに君たちに、簡単に連絡がつく場所に
いてもらいたいんだよ...
伯爵からの依頼事の結果を伝えるために、
一々、小生が君たちを探し回らなければならないのは面倒だからねぇ...」
絶対に葬儀屋にとっては、
前者の理由が八割以上占めているのだろう
と考えつつ、セバスチャンは
腕に抱えるシエルを見つめた。
--確かに、ぼっちゃんの状態からすると、
あまり動き回るのは懸命ではありませんね
「それでは、行ってらっしゃいませ」
ヒヒヒという笑い声と共に、また葬儀屋は
よじれた空間へと消えていった。
作品名:永遠に失われしもの 第13章 作家名:くろ