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永遠に失われしもの 第13章

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 葬儀屋が、部屋の壁に立てかけられた、
 古びた棺の蓋を外し、
 中に潜り込もうとした時、
 ベランダの窓が開き、
 一陣の夜風が部屋に吹き抜けた。


「おや..今夜はもう、
 来ないかと思ってたよ」


 漆黒の執事が貴重品を扱うような、
 丁寧な仕草でソファーの上に、
 シエルを横たえようとする。


「ベッドを使いなよ。
 どうせ小生はここで寝るんだから...」


「ありがとうございます」


 気品ある態度で一礼してから、
 漆黒の執事は、部屋に置かれた
 シングルベッドにシエルを丁重に運んだ。

 格の高いホテルとはいえ、
 葬儀屋のために法王庁が用意した
 この部屋は、シエルたちが宿泊した
 スィートルームと違って、
 沢山の部屋があるわけではない。

 幾ら部屋が広めであるとはいっても、
 ベッドと応接ソファーのある場所には
 なんの隔たりもないのだった。

 

「ラウル刑事がいらっしゃった
 ようですが?」

「君も彼をもう知っているんだね。
 なかなかローマ警察も
 優秀な人材がいるもんだねぇ...」

「ふふ、ロンドンヤードと違って、
 という意味ですか?」


 
 セバスチャンは、横たえた際に乱れた
 シエルの髪を直しながら、
 皮肉な微笑を浮かべる。



「ヒッヒッ、
 そこまでは、言ってないけどねぇ...」

「で何のご用で?」

 

 ベッド脇で膝をついて、
 シエルの側にいながら、
 葬儀屋を見上げるセバスチャン。



「教皇に会いたいみたいだったねぇ...
 小生に彼を連れて行けって
 頼まれたんだよ」

「なるほど、随分好奇心の旺盛そうな
 お方でしたからね」

「それが、彼を滅ぼすことにならなきゃ
 良いがね...」


 -- curiosity kills the cat.
 あの愛らしい生き物を殺す格言を作るとは
 人間とは残酷なものですね --


 軽くため息をついたあとで、
 葬儀屋を見つめ、セバスチャンは尋ねる。


「それで、何時になったら、
 あれをお返しいただけるのですか?」

 
 葬儀屋は銀の鍵のついた首飾りを
 かざして、セバスチャンを見つめ返す。


「これかい?そうだねぇ...
 小生は伯爵からこれを借りたから、
 伯爵が目覚めた時に、返すよ。

 どうせ、それまでは君にだって、
 使いようがないだろう?」

「--わかりました」

「執事君と伯爵は旅にでも出るのかい?」


 月に照らされたベランダに、トランクが
 幾つか置かれているのを眺めながら、
 葬儀屋が尋ねた。


「ええ、そのつもりです。
 ローマにはもう用はないので」

 それに--」

「それに?」

「サンカリストの地下墓地以降、
 大変嫌な気配を感じますし--」

「ふぅん...行く先のあてはあるのかい?」

「シチリアに--ここに、住所を書いた
 メモを置いておきます」


 そのとき突然、ベランダの窓から
 また、一陣の風が吹き抜けた。