永遠に失われしもの 第13章
葬儀屋が、ベランダへの窓を閉めようとしていたときに、部屋のドアがノックされた。
「夜分遅くにすみません。
もうエット-レ卿の葬儀は終わったので、
明朝にはもう母国へ発たれるかと思い、
御邪魔させていただきました」
ラウルは帽子を取り、すまなそうに、
深々とお辞儀をしている。
「ヒヒ、心配しなくても、
小生はちょっとここで営業していくから、
まだ帰らないよ~...」
葬儀屋は、へらへらと身体を揺らしながら
笑っている。
「そうですか。実は・・」
「聞きたいことがあるんだろう?」
「ええ、あと、お頼みしたいことも・・」
「何だい?..」
「あの、あなたが仰られていた、
卿から、なくなったものとは・・」
「それは、自分で調べないとねぇ~
ヒントをあげよう...
卿の、身に着けていたものさ...
後生大事にね。
あと、小生に尋問のために、
令状をとろうとしたって、無駄だよ...」
「それは承知しています。ですから、
直接こうして出向いているのです」
ラウル刑事は、エット-レ卿殺害事件の
関係者全ての情報を、
彼のコネであり、情報源でもある、
ディーデリッヒ大佐に求めていたが、
この葬儀屋についての情報は全て、
提供を拒否されていたのだ。
(ディーデリッヒ大佐から、
小生のことを君が尋ねているのは
もう聞いているのさ...
彼と小生は、
ヴィンセント・ファントムハイブ伯爵
由縁の知り合いだからねぇ...)
「それから・・これは差し出がましい
お願いなのですが・・
明日、教皇に謁見を
お願いできませんでしょうか?
理由は葬儀後の報告でも
何でもつけて頂いて・・・
あなたなら、葬儀をご依頼された方ゆえ、
教皇もお礼を言わなければならない立場、
きっと、すんなり許可されるでしょう」
「ふぅん、
それで君が一緒についてくるという
わけかい~?
随分とまた、君は、
法王庁に嫌われているんだねぇ..」
ラウル刑事は栗毛色の髪を掻きながら、
苦笑した。
「まぁ..いいさ」
葬儀屋は黒く長い爪同士を弄びながら、
執事と伯爵が本当に戻ってくるかどうかを
考えている。
一方、首尾よく葬儀屋の協力を得られた
ラウル刑事は、丁寧に葬儀屋に礼を言い、
ホテルを後にした。
作品名:永遠に失われしもの 第13章 作家名:くろ