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MY SWEET HOME

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   *

「……いったいなんの真似だね?」
「責任を取る」
 ここは経済特区・東京。六年近く前に、刹那が利用していた高層マンションの同じ部屋である。ガランとした佇まいも以前とまったく変化はない。半ば以上強引にここへ連れてこられたグラハム・エーカーは、家具がほとんどない室内を見渡して、溜息をついた。
「なんの責任だというのだ」
「ソレスタルビーイングの武力介入に対してだ」
 間髪いれずに放った刹那の台詞に、グラハムが軽く首をかしげる。意味が分からない、とでも言うように。
「……それと、私をここへ連れてきたことと、何か関係があるのかね?」
「目を離したら、アンタは死にそうな気がする」
「……っ」
 刹那の指摘は、実に淡々としたものだった。そう思ったからそう言ったという感じの、たいした意図や意味を含まない台詞なのだが、グラハムはその言葉にわずかな動揺を見せたのだ。
 何かを言わなければと思うのに、上手い言い逃れやごまかしが浮かんでこない。彼の言うように「死」を考えているわけではないが、ではその反対の「生」を常に思っているのかといえば、そうだとは強く言えなかった。
 分からないのだ。これからをどう生きていけばいいのかが。グラハムの根本ともいえるその悩みを、刹那は突いてきたのだった。
「だからここにいろ」
「だから、と言われてもだな……」
 はい、分かりましただなんて、言えるわけがない。グラハムは左手を顔に当てて、目を閉じた。そもそもどうしてそこに至るのか、その理由が不明なのだから尚更だ。
「何故、君の家──家なのだよな? に、私がいなければいけないのだ?」
「責任を取ると言っただろう」
「人を傷物のように言わないでくれないか!?」
 まるで女性を孕ませてしまった男子のような台詞に、グラハムは顔を赤らめた。それが怒りからくるものなのか、それ以外の感情なのか、自分でもよく分からなかった。
「とにかく、君に情けをかけられる謂れはない! 失礼する!」
 分かっているのは不愉快であるということで、グラハムは身を翻して部屋を出て行こうとした。しかし、その手を刹那がつかんでくる。
「放したまえ」
「断る」
 どちらも端的な言葉だけで、相手の意図を潰しあっている。コミュニケーションもへったくれもない状況に、室内の温度が急激に下がった気がした。それは気のせいというものだが、先にそのことに気づいたのは、刹那のほうだった。
 このままではいけない。グラハムから発せられる感情は拒絶の一言だ。刹那は特殊な力でそれを感じていた。
 足元がおぼつかないほど揺らいでいるくせに、他人からの同情を激しく嫌ってみせる。それは傷を負った獣が、毛を逆立てて威嚇してくるのにも似ていた。今にも切れそうなロープの上に立っている危うさを見せるグラハムの腕を、刹那はさらに力を込めて握り締めた。
 込められた力に、グラハムの眉間が少し寄る。こちらの意図を探っているような様子に、刹那は彼が決して分からず屋ではないことを知る。
「ここにいてくれ」
「……何故? 私は君を倒そうとした者だぞ?」
 それもしつこく追い掛け回したのだ。嫌われて当然、好意をもってもらえるわけがないと、グラハムは自分でも割り切っていた。だから刹那が何を考えて、何を思っての行動なのか、まったく想像がつかなかった。
「それはもう済んだことだろう? アンタとの勝負に勝って、俺はアンタの生きる理由を絶ったんだ」
「でも、君は止めを刺さなかったじゃないか」
 生きる目的を打ち破っておいて、死ぬことも許してくれなかった。本当に今更だけど、あのときあの場所で死なせてくれたらどんなによかったかと、グラハムは小さな溜息をつく。
「殺さない。俺たちのせいで変わったというのなら、俺はアンタを再び変えてみせる」
「──なんだ、それはっ」
 刹那の言い分に、グラハムは激昂した。
「君は神にでもなったつもりか!?」
「違う! 変革することが、大事だと言っているんだ!」
「武力介入をすることが変革だというのか? ならばそれによって変わることを余儀なくされた私のような者は、君の言う変革の極みではないのか!?」
 グッと、刹那は返答に窮した。その問いかけに答えるには、いろいろと弊害があるのだ。それは間違いだったとは言えない上に、《イノベイター》の正体についても、話さなければいけなくなる。彼らもまた、ソレスタルビーイングであったことを目の前の男に告げるのは、考えうる最悪な結末しか招かない。
「違う、そうじゃない。──俺はただ、アンタを救いたいんだ。勝負の果てを望まないアンタに、その先の未来を見つめて欲しいだけだ」
 ソレスタルビーイングの武力介入が、彼をそう変えてしまったというのなら、刹那は同じ組織の一員として、そこから救い上げることが償いだと思うのだ。
作品名:MY SWEET HOME 作家名:ハルコ