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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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最後の命令

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それは突然だった。

残る刀は後一本だった。

旅が終わったら、腹心になるはずだった。

地図を作るはずだった。

たとえそれが嘘だったとしても、彼女はそう言ってくれた。

直前まで、手を繋いでいた。

横を歩いていた。

突然後ろへ飛んで行った。

そして、彼女は血溜まりの中にいた。

血溜まりの中で、彼女は言った。

『好きに生きろ』っと。

『おぬしには、汽口慚愧や凍空こなゆきのようなピュアな奴らがお似合いじゃ』っとも。

彼女は死んだ。

命令だけ残して。


腕の中で落命したとがめを丁重に葬り、空っぽになった七花は彼女の上着を羽織っていた。
この一年、ずっと一緒だった彼女のすべてを置いていく事をできなかった。
命を落としたその時の着物を着る事で、少しでも彼女を感じていたかったのかもしれない。
そして、着物と共に七花に残っている彼女の気配がもう一つ。
『好きに生きろ。』
女物の着物とその言葉のみを持った七花は、3つの夜が明けた後、その場を後にした。
その目はどこか虚ろにも見えた。



 「では今日はここまでとしましょう。」
 「はい、ありがとうございました師範!」
ここは出羽・天童将棋村。
町のほぼ真ん中辺りに位置する場所に、心王一鞘流の道場はある。
少し前までこの道場に門下生はいなかった。
いたのは師範である汽口慚愧ただ一人。
歳は24~25っといった女性である。
道場が寂れていた原因はいろいろあっただろうが、そのうちの一つに彼女の性格があった。
否、彼女だけでなく、先代・先々代でもそうだろう。
決して破綻した性格であった訳ではない。むしろ、真面目である。
真面目すぎるのだ。
張り詰めた糸のような女。
それが、七花が始めて慚愧を見た際の感想だった。
常にいっぱいいっぱいの精一杯。不正を一切許さず。自分にも他人にも厳しいゆえにその稽古についてこれる人間がいなかったのだ。
その性格を形成したのが、四季崎記紀が作りだした完成系変体刀が一本『王刀・鋸』の特性『王刀楽土』。
他の変体刀が所有者に毒を投与するのに対し、この王刀のみが、所有者から毒を吸い出し、真人間にするという特性を帯びていた。
そのまま慚愧が王刀を所持していたら、彼女はその精一杯の性格から解放される事なく門下生が一人もいない流派は途絶えていただろう。
しかし、ある日突然幕府からの使いが現れた。
 「天下国家の為、王刀・鋸を貰い受けたい。」
当然、所有者である慚愧は断った。
そして、その使いから刀を掛けた勝負を持ちかけられ、それに負け、刀を失ったのだ。
そこから彼女は少しずつ変わった。
基本的に真面目であるのは変わらないが、ゆとりができたのだ。
笑顔が増え、冗談も言うようになった。
元々整った顔立ちで端正な容姿であっただけに、笑顔が見れるとあって町の男共が彼女目的で道場を訪れるようになった。
また、稽古はしっかりやりつつも、昔好きであった将棋に没頭していった。
刀を賭けた勝負の際、将棋を行ったのだがそれに負けたのが悔しかったのもあったのかもしれない。
そして、ここは将棋の聖地である。
町に出て将棋をしているうちに、その腕前と彼女の変貌っぷりは町中に知れ渡っていった。
刀を手放しから程なく、町の顔と言っていい程の人望を集め、道場もそれぞれの目的に合わせた練習メニューを考える事で門下生が増えて行き、心王一鞘流の道場は活気を取り戻したのだ。
道場の看板であった王刀の代わりに、看板娘となった汽口慚愧は見事、天下泰平の時代に合致した形で剣術道場を復興した。

 「師範。今日は将棋も教えて頂いてよろしいでしょうか?」
 「私程度未熟な者に教えられるものなどありません。ただ、対局して楽しむ事は出来るのでそれでいかかがでしょう?」
 「は、はい!是非お願いします!」
 「では、着替えてからまたここに・・・」
そこまで言って、慚愧は目の前に見慣れない、しかし懐かしい人物がいるのに気が付いた。
背丈は七尺近くある大男。
その体は細身であるにも関わらず、付くところにはしっかりと筋肉が付いていて華奢とい
う印象は受けない。
しかし、以前見た時にはほとんど裸であった上半身には女物の着物が。
なにも知らない子供の様に綺麗だった瞳は、光を無くして黒ずんで見えた。
刀を賭け、慚愧と戦った張本人。虚刀流七代目当主・鑢七花その人である。
 「ごめんなさい。今日は急用が入りました。またの機会に指しましょう。」
笑顔で門下生に断りを入れ、彼女は前方に佇む七花の元へ歩み寄った。
七花を見つけた門下生は、わかりましたっと返事をし、逃げるように帰宅していった。
 「七花殿!久しぶりですね。達者でしたか?」
 「ああ。いきなりですまないが、少しここにいていいかな?」
 「・・・?それはよろしいのですが・・・とがめ殿は?今回はご一緒してないのでしょうか?」
七花が女物の着物を着ている時点で、どこか予感していた事だが聞かない訳にはいかない。
予想通り、七花の顔が暗く沈んだがそれは一瞬の事で、明らかに無理して笑っている顔で
彼は答えた。
 「死んだよ。」
 「・・・え?それはいったい・・・」
 「ごめん。今はちょっと疲れてんだ。来ていきなりで申し訳ないんだが、寝かしてもらえないか?」
 「え、ええ。わかりました。では、あちらの離れ小屋をお使いください。布団はすぐにもって行きますので。」
 「わかった。ありがとう。」
七花は終始無理に作った引きつった笑顔で離れに向かって行った。
とても疲れているように見えた彼は実際、とがめが死んでからここ、心王一鞘流の道場を
訪れるまで一睡もしていなかった。
すぐに眠りに付くだろうと、布団を持って行った慚愧は気を使いおやすみなさいっと一言
言い、離れ小屋を後にしたのだが、七花は結局寝る事無く朝を迎えた。


 「おはようございます、七花殿。」
 「ああ、あんたか。おはよう。」
朝が明けて間もなく、慚愧は七花のいる離れ小屋を訪れた。
使われた痕跡のない布団を一瞥しながら、とりあえず慚愧は七花に昨日聞きそびれた事を聞いた。
 「して、七花殿。とがめ殿がお亡くなりになったとはいったい・・・」
今度は覚悟していたのだろう。
七花顔色を変える事無く、窓の外を眺めながら答えた。
 「そのままの意味だよ。刀を11本集め終わった所で、敵が現れて切られた。」
 「まさか・・・七花殿程の方が側にいながらそのような事が・・・!」
 「自分の腕を過信するつもりはないけど、俺もこんな簡単にとがめをやられるなんて思ってなかったよ。でも、なにもできなかった。気付いた時にはとがめは吹っ飛ばされてて、もうどうしようもなかった。」
 「そう・・・ですか・・・。もう一度将棋で勝負したかったのですが、残念です。」
 「とがめも、あんたの将棋は高く評価していたっけな。」
そこから、とがめに対し短く黙祷した慚愧は、昨日から考えていたもう一つの質問をぶつ
けた。
 「では、ここの訪れたのはどうして?」
慚愧は、王刀を手放してから心に余裕が生まれた。
本人はあまり自覚していないが、その余裕は彼女を女として意識させるには十分であり、
諦めていた愛に生きる道を思い出させるのに十分だった。
作品名:最後の命令 作家名:田舎のおこめ