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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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最後の命令

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そんな時に、自分に打ち勝った事のある男性が突然現れ、泊めて欲しいと言われたら意識
しない方が難しい。
慚愧にとって、自分でもどうゆう意味があって聞いたのかよく分からないのだが、聞かず
にはいられない質問である。
 「とがめがさ、死ぬ直前言ってたんだよ。弟子にしてもらった事あるあんたのとこだったら、悪いようにはしないだろうって。俺にはもう親父も姉ちゃんもとがめもいないから、帰る所もないしな。」
 「ああ、なるほど。そうゆうことでしたか。」
なぜかガッカリした様に感じた自分の心に疑問を感じながら言葉を続ける。
 「疲れている所申し訳ありませんが、もう少し質問してもよろしいでしょうか?」
 「ああ、答えられる範囲で答えるよ。」
 「では・・・七花殿。七花殿がここに来たのはとがめ殿の薦めですか?命令ですか?」
 「うーん・・・俺にはその違いがよくわからないんだが?」
  「薦めというのは、最終的に七花殿に意思でここに来たと言う事。命令というのは、とがめ殿の意思で七花殿がここに来たと言う事です。」
 「それなら・・・とがめの薦めって事になるかな。」
「そうですか。それでは・・・命令はなかったのですか?確か、とがめ殿と七花殿は主と腹心のような関係だったと思うのですが・・・最後になにか命令しておられなかったですか?」
「正確には、刀と所有者だったんだけどな。命令は・・・あったと思うが、あんたはなんでそんな事を知りたいんだ?」
「私は、とがめ殿を尊敬しています。王刀・鋸を賭けて行った将棋でとがめ殿のすごさをまざまざと見せつけられました。その尊敬するとがめ殿の最後の命令・最後の願いが気になります。七花殿がとがめ殿の薦めでここにいるのならばなおさら。」
もちろん、これも本心なのだが実のところ、命令を聞く事で自分がどうすべきか分かるのではないかと期待したのだ。結果から言うと、あまり意味はなかったのだが。
 「へぇ。とがめの将棋ってそんなにすごかったんだな。なんとなくそんな気はしてたけど。えっと、とがめの最後の命令だよな?なんって事ない命令だよ。命令と言うより、解雇と言ってもいいかも。『好きに生きろ』。これが、とがめから受けた最後の命令だ。」
 「好きに・・・生きろ、ですか。なるほど。とがめ殿は、ホントに七花殿を大切に思っておられたのですね。」
 「ただ、俺にとってはどうでもいい命令だな。もうとがめはいないし、俺はとがめと一緒に居る事が生きる意味だったんだから。」
 「・・・・では、なぜここに?」
思わず口にした質問であったが、意味が違う。口調も違う。
どこか怒っているっと言ってもいいような口調での同じ質問。
七花はうーんっと唸り、少し無言になった。どうやらまだしっかりと整理ができているわ
けではないようだ。しばらくの無言の後、ゆっくり口を開いた。
 「ちょっと考えてみたんだが・・・なぜだろうな。命令を無視するなら、がむしゃらに戦って野たれ死ぬのもよかったかもしれないのに。俺は刀だから、主を亡くしたなら存在する意味もない。そう考えると・・・ここにいるのは不自然だなぁ。」
本当に自分の命など価値がないように七花は答える。主を守れなかった刀など、存在して
いいはずがないっと、さらに付け加えた。
 「そこまでご自分を責められるものではありません。あなたはできる限りの事をしたのでしょうから、誰もあなたを責めたりもしませんよ。とがめ殿が生きろとおっしゃったのがその証拠ではございませんか。」
 「責めるねー・・・使えない刀を処分するのは、当然だと思うんだがねー。まあでも、ここにいるのは、刀として、主の最後の命令を破れなかったってだけだと思う。そのうち、どこか死ぬ所を見つけるからさ。長期間厄介になるつもりもないし、俺の事は構わないでくれていいから。」
七花が言い終わると同時に、慚愧は怒りの形相で立ち上がった。
 「構わない訳ないじゃないですか!あなたは、自分の事を刀だと言っていますが、私から見ればあなたは人間です!大切な人を失い、弱った末に私を頼りにして来てくれた一人のか弱い人間です!いいですか!私の許可なしに、勝手にここを後にするのは許しませんからね!」
バシン!!っと、扉を閉めて出て行った。
七花はポカーンっとした間抜け顔で扉を眺めて一言。
「俺、変な事言ったかな?」


「・・・・――――――っ!!」
なんとなく怒りが収まらない。
いや、なんとなくじゃない。理由は分かっている。
彼は、命を粗末にしすぎている。
とがめ殿が自分の命よりも望んだ命を、だ。
それを彼は自覚していない。できていない。
人の心があるのなら、分かりそうな事である。
それ以上に、簡単に死ぬと言う事がもう理解できない。
それを簡単に言ってしまうのが、刀ということなのだろうか。
ならば、とがめ殿は彼に人間になってほしかったはずだ。
ただ、ここに来てくれたのだから、まだ救いようはある。
とがめ殿の薦めがあったとはいえ、無自覚とはいえ、私に頼ってくれているのだ。
短期間であれ、生きる事を今は選んでいるのだ。
ただ、どうすればそれを自覚させる事ができるのだろう。
とがめ殿の最後の言葉でさえ、自覚できずにいる。
どうすれば良いだろうか・・・
このままでは、きっと直ぐに彼は死ねてしまう。
私に出来る事は・・・



慚愧が七花に怒りをぶつけ離れ小屋を後にしてから数日が過ぎた。
その間、言葉こそ交わしはしなかったものの、彼女はある程度の七花の行動を監視していた。
とりあえず、早朝には外に出て稽古をしているようだ。
日課になってるようなものらしく、動きはとても洗練されている。
しかし、その動きも日に日に頼りないものになって行く。
それもそのはず、彼は恐らく寝ていない。
早朝の稽古以外ほとんど小屋から出る事がなく、寝る以外にやる事のないあの小屋で寝ていないのだ。
そうでなければ、過去に慚愧を圧倒した虚刀流の技、七花の技がここまで弱々しくなる事もない。
早朝の稽古以外の持て余した膨大な時間。
その時間寝る事無く、なにもしていなのであるならそれは尋常ではない。
通常の精神状態であるはずがない。
このままなにもしなければ、衰弱死すらあるかもしれない。

慚愧は考えていた。
自分にはなにが出来るだろうか。
言葉では彼は動かない。
しかし、ほっておいたら彼は死んでしまう。
彼を変える手段はないだろうか。
あるとしたら、恐らく二つ。
一つは、とがめ殿の言葉・命令。
しかし、当たり前の事だが彼女はもういない。
いればそもそもこのような状況にはなっていない。
ならばもう一つの方法しかない。
彼は剣士。そして、私も剣士の端くれ。
この手段を選ぶなら、命を賭けなければならないかもしれない。
彼も、そして私も。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
なにもせずに朽ちさしてしまうようなら、私は私でなくなってしまう。
私は汽口慚愧。
活人剣・心王一鞘流十二代目汽口慚愧だ。


その日、稽古が終わってから慚愧は七花のいる離れ小屋に向かった。
 「・・・七花殿、おられますか?」
少し間があった後に、ガラっと扉が開いた。
 「ああ、なんか用か?」
慚愧はホッと胸をなで下ろした。
作品名:最後の命令 作家名:田舎のおこめ