幻想水滸伝ダーク系20題
09 / 傍にいて
2年が、経とうとしている。
これは驚異的な数字だ。ありえない。どうしたんだ自分。
というか、どうしたんだソウルイーター。あんな極上の餌を前にして。まさか、今さら殊勝にも自分の言うことを聞く気になったわけでもあるまいに。
「あー、それともまさか。お前あれか。ルイのこと、惜しくなったりとか、したのか?」
それこそありえない。魂喰いは、こいつの、この厄介な紋章の、本能なのだ。でもって、それを止めるべき理性は、存在しない。
いや、宿主たるテッドが、外付けの理性と言えなくもないけれど。
「何だよ。最高の餌だろ? 俺には見えないが、魂の輝きとやらは申し分なさそうだし、何より、今までの誰より、俺に近づいてる」
喰らってきたのだ、この紋章は。彼の嘆きも涙も、何もかも知らぬげに、彼に近づいた魂を、片っ端から。
そのことに気づいてから、彼がどれだけ用心したことか。
必要以上に人間に近づくこともなく、心を許さず、常に意識して、頭の中を疑心で満たしてきた。
おかげで世渡りの術だけは早々に熟達したけれど、代わりに失ったものがどれだけ、大きかったことか。
と言っても、もう、思い出せもしないけれど。
「ま、喰わせはしないけどな。あいつは、俺のもんだ」
それでも。
思い出させてくれたのだ、あの少年は。貴族のくせに、貴族だからか、すべてに無頓着なあいつは、いつか見た、懐かしさに似た瞳をもって。
「お前なんかに、やれるか」
もう、少しだけ。あいつが、あいつの世界に、俺が行けない世界に、どっぷりと踏み込んでいく、そんな日が来るまで。
もう少しだけだ。
いつかは去らなきゃならないし、探さなきゃならない人だっている。ぐずぐずと、暖かい蒲団に包まって出てこられない子どものような未練は、らしくない。
あいつと会えた、それだけであと300年は、やっていけるだろう?
「もう少しだけ、俺は、あいつのもんでいる」
だから、忌まわしき魂喰い、ソウルイーターよ。
今しばらく、おとなしく、ただ傍にいてくれ。
作品名:幻想水滸伝ダーク系20題 作家名:物体もじ。