幻想水滸伝ダーク系20題
02 / 望み
今までとは毛色の違う子どもが、自分の生活の中に加わった。
けれど、だからと言って、それまでの習慣を変えようとは思わなかったし、そもそも、変えるなどという選択肢すら、ルイシャンの中には浮かばなかった。
「坊ちゃん、テッドくんは、戦争で、ご両親も、頼れる人も、みんな亡くしてしまったそうです。寂しいでしょうし、仲良くしてあげてくださいね」
世話焼きの家人の言葉に、そうかと素直にうなずきはしたものの、「仲良くする」とは具体的にいかなることなのか、ルイシャンには見当もつかなかったし、彼にはやるべきことが多すぎた。
さし当たって、毎日のように、食事とお茶を共にする。
それが、ルイシャンに出来る限りの「親しさ」の現れだったし、それ以外には、何をしようもなかった。
けれど、ルイシャンが思うに、テッドは不思議な子どもだった。
ルイシャンとて、その気楽でない立場のせいもあって、そうそう多くの子どもを見てきたわけでもなかったが、それでも、「違う」と思わせる何かが、テッドにはあった。
おいしい食事やお茶菓子を前にしたときの、無邪気そのものの笑顔や、子ども扱いされたときの悔しそうな、拗ねたような顔。
家人が目を離した隙に、こっそりと他人の皿からおかずを失敬する、悪戯小僧そのものの仕草。
けれど、ルイシャンだけは知っていた。
時おり、本当に、時おり。ルイシャンだけは、目にしていた。
楽しそうな笑みを浮かべた唇も、生き生きとした頬もそのままに、ふっと落ち窪んだような、不可思議な瞳を。
唇の裏側をかみ締め、剥がれ落ちた表情の中で、圧倒的なまでの光を放つ、瞳を。
未だテッドよりも小柄だった、ルイシャンだけが、目にしていた。
ふと俯いた、テッドの顔を、彼だけは。
だから、興味を抱いたのだ。見たこともない、この子どもに。
見たいと思ったのだ。見たことのない、彼の顔を。
隠し持っている。それは、確信以上に確かな、彼にとっては、事実だった。
嗅ぎつけたのは、どうしてだったのか。それが解るのは、ずっと先のことではあったけれど。
作品名:幻想水滸伝ダーク系20題 作家名:物体もじ。