幻想水滸伝ダーク系20題
04 / 暗闇
それは、身に馴染んだものだった。
望む望まない、意識するしないに関わらず。
馴染んだものでしか、なかった。
初めて放り出された暗闇を、忘れることはない。
どれだけの悲しみ、怒り、虚脱……何を伴うとしても、忘れることは出来ないし、そのつもりもない。
だから長いこと、気づかなかったのだ。
明るさを知らぬ者が、闇に、気付く道理もない。
何しろ、初めてのその感覚……炎がすべてを焼き尽くし、誰もが彼方へと去って行った、あの暗闇の中。
それでも彼は、光を見ていた。
初めての、どんなものともちがう、黄金(きん) の光。
彼の持つすべてを代価として贖ってもいいと思うくらいの、光輝。
なのに、気付いてしまった。気付かされてしまったのだ。
約束された安寧は、すでに遠く、長く知らずにいた光を知ってしまえば、それを見ないわけには、いかない。
触れろとばかり、目の前に揺れるそれに、指を伸ばさないわけにも。
だから彼は求めた。
幼い心を制するものはなく、一途に、貪欲に、その光を。
けれど、触れて、捕まえて、それでも、身に馴染むのは光では、なくて。
あまりにも変わることなく、そのままで、ありすぎて。
気付いた、その光。
輝けば輝くほど、そこに集うのは、闇ばかりであり、それらを照らして、輝きは増す、ばかりで。
求めても、手に入れても、馴染んだ闇が取り払われることなどは、ありえなくて。
触れる光のあたたかさが、くるおしくて。
自分のすべてを壊したいくらいに、いとおしくて。
その輝きをのみこむ、闇に包まれた自分が、可笑しかった。
その輝きを隠し、また一層際立たせることの出来る自分が、嬉しかった。
すべてが去った今となっては、残されたのは。
すべてを手放して、この今、自分を孕んでいるのは。
狂おしく厭わしい、
涙が出るほど静穏な、
光のない、暗闇。
作品名:幻想水滸伝ダーク系20題 作家名:物体もじ。