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物体もじ。
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幻想水滸伝ダーク系20題

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05 / 明け方の夢



 目を射んばかりに眩しい、けれど、どうしてか、沁みこんでくるのは……そう、「切なさ」。

 奇跡のような、そのひかり。


 それが、自分が「自分」として始まった、最初の記憶。





 正直言って、昔のことは、そんなに鮮明には覚えていない。
 そもそも当時の自分はまだ十やそこらの幼児であって、一体自分の身と、自分の世界に何が起こったのか、それすら把握できてはいなかった。

 それからしばらくの間は、とにかく生きていくのに必死で、いろんなことに慣れるのに必死で、ただ、何となく「大変だった」と、それ以外はあまり記憶に残っていない。別に思い出したくなくなるほどに酷いことがあったわけではないと思うのだが。

 ──いや、まあ。

 きっと、世の人間の大半にとっては、自分の生い立ちとこれまでの人生そのものが、十二分に「酷い」ものなのかもしれないけれど。


 最初にテオ・マクドールに紹介されたときにいた、家人の1人……金の髪の優男の哀れな少年を見る目を思い出して、テッドは片側の頬だけで笑う。

 「戦災孤児」。それはあながち間違ってもいないだろうと、テッドが一番よく纏う身の上話であるのだけれど、何か特別な思い入れでも あるのか、それとも単に同情深い性分なのか、そう聞いたときのあの男の反応は、テッドが知る中でも最高に笑えるものだった。

 テッドが真実、戦災孤「児」として過ごしてきた間のことは、そんなに覚えてはいないけれど、そうそう悲惨なものではなかったはず だ。この時代、彼よりも余程に惨い目に遭っている孤児など、ざるに入れて量りに掛けられる程度にはいるだろう。


 テッドは、彼ら同様、何の前触れもなく、住む世界も庇護も、すべてを失ったとは言え、それでも、身を守る術と……あまりにも明確な 、生きる意志を持っていた。

 そのうちの前者、元凶たる紋章に関しては、あまりにも不安定で、その後も度々煮え湯を飲ませてくれたので、そう素直に感謝する気に はなれないが……後者。もっと正確に言えば、それをもたらしてくれた存在に関しては、無条件の好意というか、憧れと言うか、崇拝、め いたものを抱いている。


 憶えているのは、ひたすらに白く清冽な光と、その逆光の中、まるで先までの炎を写し取ったかのような、夕焼けのような輝きを刷いた 、黄金の瞳。



──いつか、また逢える。



 そう言って、笑んだ、自信満々の口唇。


 ころり、とテッドは寝返りを打つ。

 まぶたに感じる、窓を透って落ちる朝の光は、しろく、あのときのひかりに似て、とても心地好い。


 そのうち相棒が起こしに来るのだろう、と意識の隅っこで考えて、テッドは久しぶりに見た夢を脳裏に描き出す。


 あまりよく覚えてもいない昔の記憶の中で、唯一、度々彼の夢を訪れる、最初のとき。



──必ずだ。



 いつだろう。そう思いながら、彼は長き時、世界をたゆたってきたのだ。

 そのときは近いと、右手の紋章は騒ぐのだけれど。


 ああ、願わくば……あの裏のある笑みばかり浮かべる、相棒も一緒ならいいのだけれど。自分が無条件に慕うひとを見て、あいつがどん な反応をするのか……考えると、今から楽しみで仕方ない。


 気持ちのいい微睡みに逆らうようにゆっくりと覚醒していく意識の中から、テッドはそのひとの言葉を最後に、拾い上げる。



──この俺が言うんだ、信じろ……



「──テッド」



 ふつ、と、夢の残滓を切り捨てるように、明快な声。
 条件反射のように開いた瞳に、至近距離でうつるお奇麗な容顔。



「いつまで寝ているつもりだ、お前は。締まりのない顔をして」

「……お前かよ、ルイ……」



 目を開けてしまえば眩しすぎるような朝日の中、笑みを含んだ琥珀の瞳が、見下ろしている。

 この笑みが曲者なのだと、見るたびにそう再認識させられる、いつもどおりの相棒の顔。



「せっかくいい夢見てたってのによ。少しくらい寝かせとけよ、無粋な奴だな」

「ほう? 一体「誰」の夢を見ていたんだかな。さあ、この親友に語り聞かせてみるといい」

「何でお前に言わなきゃなんねぇんだよ」

「それはな、テッド。この俺が興味を持ったからだ」



 恐らくグレミオあたりが見れば、「いつまでもウチの坊ちゃんは子どものように無邪気な笑顔を忘れない方で」なんぞという明後日の方 向へ3回転半ひねりを加えて飛んでいくようなコメントをしてくれる、実際、見たかぎりではそんな感想を抱くのも無理はないかと思って しまうような、顔。

 ただし、言っていることは自己中心の見事な見本。いっそ標本にしてやりたい。

 なのに、それが当然、世界の理とばかりに自信に満ちた声音が、どこか。夢のつづきのような気がして。


 でも。



「お前の興味のためだけに俺の心の聖域をほいほい語れるか、馬鹿」

「聖域? せーいーいーきー? そんなに隠しておきたいほどにヨコシマなことを考えていたのか。怒らないから素直に言ってみなさい 、テッドくん。例の未亡人のことなんだね?」

「聖域とヨコシマってのはどう考えたって正反対だろが! つーかどうしてそこに行き着く」

「そりゃまあ、男の聖域と言えば、筆お」

「朝っぱらからほざいてんじゃねぇ! 死んでこいこの馬鹿っ!!」

「今さら照れるほどの可愛げなんざお前にはないだろう」

「自分と人を一緒にするなって何回言えばお前のそのイカレた思考回路に刻み込めるんだ」



 ああ。記憶の残滓も、過ぎ去った日も、最初のときも。

 刹那であろうと、永久であろうと。

 それが、今までの自分を形作つくってきた、自分の中の、いちばん奥深いところにあるものでさえ。


 それを鮮やかに思い出させてくれるのは、もはや夢だけになってしまって。


 このいつもどおりの親友の声で、容赦なく、過去に変わってしまう。

 次の日の晴天を約束する夕焼けを封じ込めた黄金の瞳も、清冽で切ない奇跡のようなひかりも。




 今ではすべて、明け方の夢になってしまって。


 ただひとりの「相棒」が、それを過去にしてしまう。





 ──信じろ……テッド





 それでも。

 夢より儚い最初のひかりを辿って、俺はまだ、生きているのだ。





「ま、いつかは話してやるよ。ルイ」

「なら今言え。もったいぶるような話でもないだろ、お前の燕生活のアレコレなんざ」

「……やっぱり、俺に話して欲しかったら、死んでこい。お前は」