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物体もじ。
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幻想水滸伝ダーク系20題

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07 / 真っ青な空



「なあ、ルイ。今日は暇か?」



 マクドール家に住む2人の子どもの1日は、大抵、こんな言葉から始まる。



「午前中は戦略の講義」

「それ、昨日もなかったか?」

「昨日のは戦術」

「……どう違うんだ」

「面倒くさい。今日のとは対の講義だったから、休むと昨日のが無意味になる」

「つーか説明しろよ。このものぐさ」



 そうして、家の嫡男の予定で、家の居候の予定も決まる。

 と言っても、将軍家の継嗣である少年はおおよそ、午まえまで何がしかの用事で埋まっていて、テッドとルイシャンが一緒に過ごすのは、昼食が済んでから、ということになる。



「いっつもご苦労なことで。たまにはサボろうとか、そういうことは考えないわけか?」



 そして大抵、テッドはこのように誘いをかけるのだけれど、その声には、拍子抜けするほどに、熱がない。



「考えないな」



 何故なら、いつでも、少年の応えはこうであるから。

 朝食の前の鍛錬を彼が怠ることは在り得ないし、昼食までの時間を自由に過ごすことも、ほとんどない。

 そのあまりの規則正しさに、何か理由か主義でもあるのか、と問えば、ひと言、


「必要だからだろう」


と返ってきた。

 テッドとしては、感心を通り越して呆れるしかないのだが。


 いつも通りのやり取り、いつも通りの態度。

 言葉を交わす間にも、講義を受けるための資料をととのえる手を休めはしない少年にひとつ肩をすくめて、テッドは早々に──教師として呼ばれる学者がやって来る前に退散しようと、扉に手をかけた。


 今日もいつも通り、住み処として貰った小さな家でのんびりと過ごそうか、などと考えながら。



「テッド」



 くるりと取っ手を回すのを見計らっていたかのように、背中に伸ばされる、少年の声。


 振り返った視線を誘うように、若草と勿忘草の二藍がひるがえる。

 ひらひらと鮮やかな色の布を玩びながら、ルイシャンは楽しそうな笑みを浮かべ、半身をテッドと向き合わせて、



「どうせなら、せめてもっと熱心に誘って見せろ」



額にかかる黒髪を払えば、白い面輪の中に顕わな、琥珀の双玉。



「俺を、引きずり出したいならな」



 ほそい指からふわりと逃れ、宙を遊ぶ布を知らず、強く掴んで引き寄せる。

 あっさりと、おとなしくその手に収まる布に、テッドはくっと口唇の両端を持ち上げた。



「了ー解。明日、見てろよ? 嫌でもサボりたくなるようにしてやる」



 受け取った布を肩に引っ掛け、開け放った扉から宣戦布告を残せば、得たりと笑った少年の、煌と輝く両の瞳。


「楽しみにしていてやるよ、明日」



 閉じた扉、少年の部屋から離れ、すでに自分の家も同然と知悉した邸を出れば、横顔に受ける、きつい太陽の光と、そのおこぼれを拾って嫌味なほどに抜ける蒼の天球。



 そして、気付く。



 そう言えば、「明日」の約束をするのは初めてのことだった、と。