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貴方なんていらない/君が欲しい

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「誕生おめでとうございます」
「ありがとう」
臨也は小さく笑ってそう返す。それ以外なにもない。自分の誕生日に喜びというものをさほど感じないからだ。黙って生きてさえいればどんな愚者にだって訪れる日のなにが喜ばしいのだろうか。理屈は分かるが理解は出来ない。もちろん、そんな些細なことで一喜一憂する人間の方は愛していたが。
「ちょっと遅れちゃいましたけど、何か欲しいものありますか」
「別にいいよ。帝人君のその気持ちだけで」
「そうですか?」
首を傾げる帝人の感情は平坦だ。臨也がそんなことを口にすると分かりきっていたかのように。たとえば、これが彼の身近にいるものの対応だったならば、もっと帝人はねばっただろう。相手が遠慮しているものだと思って、言葉を連ねたに違いない。関係で言えば、臨也もそうされるべき人間だ。だが、帝人はそこで話が終わったとばかりに、ぬるいコーラに口をつける。その姿を見ているだけで、口の中にぬるりとした激しさがよみがえる。以前、彼とここに来るよりずっと前に臨也も同じものを飲んだのだ。
「――とんでもないこと申しつけられると思ってましたよ」
「俺が? まさか、帝人君にそんなことするわけないよ」
「あはは、そうですね」
しらじらしい。そう臨也は思うが、帝人だって同じことを思っているに違いない。
いつからか二人の仲というものは外側だけが立派ながらんどうになっている。臨也がしでかしたなにかしらのことに気づいたからだろうと予測しているが、彼は決してなにも言ってこないから真相はわからないまま。正直に言えば、これは予想していなかったことで、しかも臨也にとってあまり良いことではない。自分がしていたことが彼に知れたらどうなるのか内心楽しみにしていたのだから。怒りにしろ悲しみにしろ裏切られたと気づいた時に帝人が見せるであろう表情はとても好ましいものだと予測出来ていて、是非ともそれをこの目で見たかったというのに。なかなか上手くいかない。
「臨也さんって、思っていたよりも無欲ですよね」
「そうかな? 君の目に俺がどれだけ強欲に映っていたか気になるところだなぁ、それは」
「強欲とまでは言いませんけどね。でも、臨也さんわがままじゃないですか。欲しいものは欲しいだけ手に入れたいタイプでしょう」
「それは人間なら誰だってそうだと思うけどね。手に入るか否かは別としても、欲しいものがあったら欲しいって望むだろう、君だって」
「そうですけど、でも、僕はたくさんのものを望んではいません。僕が、欲しいものなんてたったひとつですから」
「それは俺も同じさ」
もちろん、帝人の欲しいものも臨也の欲しいものもまったくの別物だ。もし、二人の欲しいものがお互いだったならば、なにもかもがハッピーエンドで終わるだろう。みんなに祝福されて笑顔で迎える大団円。吐き気がするような幸福に迎えられるに違いない。
それが何をしなくとも黙ってこちらに向かってくるだけだったら臨也は受け入れるだろう。その程度には帝人を愛している。だけど、きらきら光るそれは、臨也自身も望み手を伸ばさなければ絶対に手に入らない。手を伸ばす気なんてもちろんない。
「君が欲しいって言ったらどうする?」
だから、こんな風に嘘だって吐けるのだ。
まっすぐに臨也を見ていた帝人の視線があからさまに外される。考えていることを悟らせないためかと思ったが、違うようだった。臨也から外された視線はどこでもないところを見ていて、どこか嬉しげでもある。ああ、と臨也はつられて嬉しくなった。
――帝人は照れているのだ。薄い笑いを浮かべて、遠い目をしていても。恥ずかしいからまっすぐ臨也の目を見られない。恥ずかしいことを悟られたくないから、平坦な感情の布を隠して臨也に本当を見せないようにする。それはとても稚拙で、馬鹿らしい行為。だからこそ、臨也は今までよりもずっと帝人を愛しく思うのだ。絶対にハッピーエンドを迎えないこの世界の片隅で。
ふっと軽い息を吐いて、帝人はぬるいままのコーラを飲み干した。それだけで彼の隠すべき感情は綺麗に隠匿され、先ほどまでの完璧で薄っぺらい竜ヶ峰帝人に戻っていく。始めからそうだったみたいに。
「その願いならもう叶っているじゃあないですか」
「そうだ。そうだったね。俺は君のもので、君は俺のもの――そうだろう?」
「ええ…ところで臨也さん」
それ、飲まないんですか。
そう言った帝人が指さしたのは、臨也の前に置かれた一口もつけられていないエスプレッソ。分かっている癖に、彼はそういうことを言う。自分と同じで。カップの中に描かれた綺麗な模様をスプーンで崩し、一口ほんのお情け程度に含む。
冷めた苦い感覚が舌の上に広がっていくのを感じながら、臨也はやっぱり美味しくないと、そう思った。