そうして愛をむさぼって 2
・・・何事もなければいいが。
不安を押し殺して、ルートヴィヒはエリザベータの不安顔に口を開いた。
「ああ・・・招待状には出席の返事をしていたはずだが」
それを聞いて、ほっとエリザベータの表情が緩んだ。
「そうよね、確かにそう返信をもらってるし・・・考え過ぎよね」
あいつのことだし、また男女がドレスかよってからかわれそうよ、と零す。
だが。
「考えすぎ、とは?」
ルートヴィヒは尋ね返した。
エリザベータがギルベルトの出欠を気にしている。
・・・ギルベルトの思いにエリザベータは気づいているのだろうか、それとも、そう思うような事が過去にあったか。
「え?・・・いえ、ただあいつ天の邪鬼だから、こういう場でひねくれた行動しそうで」
ほらあいつ、一応幼なじみだし、祝って欲しいし。
ルートヴィヒはじっとエリザベータを見た。彼女は艶然と微笑み、さも何でもないという顔をしている。
(少し、焦っている・・・?)
美しく結い上げられた髪の生え際に、わずかだが汗が滲んでいる。
今までの二人の距離、エリザとローデリヒの距離、ローデリヒと兄の距離、兄の荒れようと変化、そしてエリザベータの気にしていること。
何かが1つにかみ合いそうで、ルートヴィヒは口を開いた。
「エリザ、」
「あ~!!ルートいけないんだ!!エリザさんを独り占めしすぎだよ」
が、問いかけは賑やかなフェリシアーノの声にかき消された。
いつまで待ってもルートヴィヒが自分を追いかけてこないことが不思議だったのだろう。
いけないんだ、いけないんだ~と騒ぐ声に、かみ合いそうだった「何か」が消えていく。
ルートヴィヒは息をついた。
(何を心配しているんだ、自分は)
例えこの3人の間に何があろうと、今これからエリザベータはローデリヒと結婚するのだ。
ほじくり返すのは無粋という物だし、実際はエリザベータの言うとおり、彼女は天の邪鬼な幼なじみの心配をしているだけかもしれない。
そしてギルベルトだって、もういい大人なのだ。あと10分もすれば、「俺様遅刻ぎりぎりだぜ!」とかなんとか笑いながら現れるだろう。
結婚式はつつがなく執り行われ、そして今晩はとっておきのビールで兄の愚痴を聞けばいい。
そう、全ては自分の杞憂だ。
(心配性、なんだろうな・・・)
「わかったわかった。すぐ行くから、そんなに騒ぐな」
きびすを返してフェリシアーノの待つ扉へと向かう。
そしてああ、とエリザベータに振り向き、声をかけた。
「言うのを忘れていた。エリザベータ・・・幸せに」
ええ、と笑う彼女が遠くなり、そして扉が閉まる。
それが彼女を見た最後になるとは、ルートヴィヒは全く考えていなかった。
作品名:そうして愛をむさぼって 2 作家名:あこ