そうして愛をむさぼって 2
「兄さん、いい加減にした方がいい」
玄関で酔い覚ましの水をあおりながら、ギルベルトは聞き流しているかのように見えた。
靴を履くために置いてあるソファに四肢を投げだし、虚ろに笑う。
「そんな人じゃなかった、って、俺がどんな奴だったか、お前は全部知ってるのかよ・・・」
そうケセセ、と笑った。
「どんだけ汚ねぇ感情持ってたかお前知ってるのかよ」
「・・・」
「反吐が出るような、真っ黒な感情だったぜ。お前にだけは言いたくねぇような、真っ黒い」
一息ついた。
「・・・兄さん、俺は兄さんのエリザベータに対する気持ちには気づいていたつもりだ」
ギルベルトの肩がぴくりと動いた。
それを確認して、ルートヴィヒはさらに言葉を接ぐ。
「兄さんの気持ちが混乱しているのも・・・なんとなくだが、わかる。
だから、荒れるなというのが俺の勝手な願いだと言うこともわかっている。
それでも俺は、こんな風に負けっ放しの兄さんは見たくない。兄さんはいつだって誇り高い人だから。
ゲルマンの強さを持っている人だと思っている」
あの二人を祝福してやってくれと、そう言葉には出来なかった。それはあまりにも酷だからだ。
ただ昔の兄のように、負さえも正にする強さを取り戻して欲しくて、ルートヴィヒは言った。
「兄さんは、自分の気持ちに向き合って欲しい・・・我らゲルマンは、決して戦場から逃げたりしないはずだ」
「・・・」
返事はなかった。
ただ、翌日からギルベルトは深酒をすることも、顔を腫らして帰ってくることも無くなった。
少なくとも表向きには、以前の生活を取り戻したのだ。
ただルートヴィヒは、いつも通りケセセと笑うその声に、フェリシアーノ相手におどけるその姿に、表面的な物を感じていた。
顔で笑って、でも腹で何を考えているのかわからない。
自分の中に押し込めていた真っ黒な思い、それをまき散らして荒れていた時とは違う。
海底の岩陰に食べ残しの腐肉を隠すという深海魚、そんな気味の悪さ。
『兄さんは、自分の気持ちに向き合って欲しい・・・我らゲルマンは、決して戦場から逃げはしないはずだ』
あの時、自分が言ったこと。
もしかしたら自分は、何か取り返しのつかないことを言ってしまったのかもしれない。
二人から来た式の招待状、その返信ハガキに、笑いながら「出席」と丸を付ける兄。
その兄を見て、ルートヴィヒは内心ぞっとしていた。
作品名:そうして愛をむさぼって 2 作家名:あこ