宵闇にて
六:食物連鎖
どうやら彼は僕のことが好きらしい。
泣きそうな顔で黙り込んだ弟の顎を指先で上げさせ、僕は言った。
「それで、どうして欲しいの?」
彼は子供の様にゆっくりと一度だけ眼を瞬かせ、軽く首を傾げた。軽く、と言ってもその動きはぎこちなく、彼が戸惑っているのが良く分かる。
「どう、というのは」
「受け入れて欲しいのかな。それとも、罵って欲しいのかな」
僕はどっちでもいいよ、と笑うと、彼がまた顔を伏せようとした。笑顔のまま、その頬をはたく。途端に彼は動きを止めた。良い子だ。頭を撫でてあげようかと思ったけれどやめた。別に深い理由なんてない。
「……私、は」
「うん」
「…………」
相槌を打ってあげたというのにまた沈黙する彼に、顔には出さないまま苛立ちを募らせる。仕方無くしばらく待つと、彼がようやく口を開いた。
「……分かりませ」
言い終わる前に僕は彼の髪を掴んで引寄せた。彼の苦しそうな表情が目の前に来る。
「兄上」
「馬鹿な子」
せっかく選ばせてあげようとしたのに。
彼の髪を掴んでいた手を外し、両腕を首へ回す。
「口吸いがしたいの?それとももっと先が?」
「……、」
「気持ち悪い」
僕の問いに答えようとした彼の言葉を、ぴしゃりと遮る。答えなんか聞いていない。もう彼にその権利はない。
「でも、お前がそうしたいならいいよ」
彼の頬に軽く口をつけてから、とびっきりの微笑みと共に囁いた。
「あにうえ……?」
「僕はお前のことなんて全然、あらゆる意味で好きじゃないけれど、それでもいいなら付き合ってあげる」
「……なんで」
「決まってるじゃない」
彼が泣けばいい、と思いながら僕はその言葉を口にした。
「お前は僕の可愛い弟だもの」
(長曾我部兄弟)