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都市伝説

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我侭であったと思う。
彼なら、何をしても許してくれると、思い込んでいた。


「菊、喉渇いたー」
「紅茶とコーヒーとコーラと・・他にも何か飲みたいものとかありますか?」


「菊-、甘いもん食いたい」
「お饅頭と最中がありますけど?」
「ん、ホットケーキがいい」


「きくぅ、布団まで運べよー」
「はいはい、しっかりつかまっててくださいね」


「きくーコントローラー投げたら壊れた」
「また買いますから気にしないでください」


「なあお前のマンジュウ食っていい?」
「いいですよ、お好きなだけ」


「悪ぃー、お前の原稿にコーヒー零した」
「ああ、いいんですよ、そんなの。気にしないでください」


「なーなー、俺様懐石料理って食ってみてえ」
「わかりました。今から予約しますね」


「・・・・あー、なんか微妙」
「ふふ、いいんですよ、残しても」


なんて優しい奴なんだと、感動してからしばらくした頃。夜中にトイレに起きてみると居間の障子から光が漏れていた。影から察するに中には菊がいるようで、少し気になってその隙間をそっと覗く。居間の机で菊が何かをひどく楽しそうに手帳にするする書いていた。何書いてんだ、と声を掛けることも出来たが、明日聞けばいいかとその場はとりあえずトイレに向かった。


翌朝そのことをすっかり聞き忘れ、それから数日間タイミングを逃し、結局聞かない日が続いた。


ある日、菊に漫画の新刊を買ってきてほしいと頼んで、彼が留守のとき。玄関の靴箱の上に見覚えのない手帳。ふと数日前菊が書き込んでいた手帳のことを思い出し、もしかしてこれだろうかと、急に心臓がドキドキする。隠し事すらないものだと思っていたし、仮に読んではいけないものだったとしても彼なら許してくれると思って、手帳を手に取った。


『コントローラー破壊  -5点 残り53点』

『原稿コーヒーまみれ  -8点 残り45点』

『懐石残す  -4点  残り41点』


「・・・なんだこれ」

淡々と書かれた事象にはどれも身に覚えがあって、点数がついている。途端に背筋に悪寒が走ってパタンと手帳を閉じた。先ほどと違う意味で心臓がドキドキと高鳴る。その瞬間にきし、とすぐ後ろの床が鳴った。
ひ、と情けない悲鳴を出して勢いよく振り返ると口だけはにこりと笑った菊。目なんて怖くて見れなかった。



「0点になったら、売り飛ばしますからね」




作品名:都市伝説 作家名:桂 樹