犬神
「これでよしっと!」
「「できたのか?」」
「はい、これで僕とあなたの契約は完了です。よろしくお願いしますね『静雄』さん」
静雄と呼ばれた獣はどこか照れくさそうに尻尾を揺らすと、だけど、と呟いた。
「「俺にはその名前、おかしくないか?」」
「そうですか?僕はいいと思いますよ。それに少し戒めも入っています」
「「戒め?」」
「えぇ、あなたが怒りに身を任せないように。というね」
静雄はそうか、と言うと帝人の胸に大きな頭をこすり付ける。
そんなじゃれてくる大きな獣に帝人は笑うと、その毛を撫でてやった。
「あ。言い忘れていました。式神として契約すると、その式は人形をえるんです。
だから、静雄さんも人の姿になれますよ」
「「人の姿?俺が?」」
「はい。一度やって見せてください。念じれば、なれるそうです」
「「おう・・・」」
静雄はいったん帝人から離れると、そっと瞳を閉じた。
そして次の瞬間、ものすごい突風が吹き荒れる。
帝人は反射的に袂で顔を守ると、初めて聞く男性の声に顔を上げた。
「ど、どうだ・・・?」
照れくさそうに笑いながら、ほほをかく男性を帝人はぽかんと見つめる。
己よりとても高い背丈。
太陽の光で金色に見える髪はとても柔らかそうに風になびき、
白い衣を着ている静雄を帝人はまるで神だと思った。
そんな呆けていた帝人に静雄は眉を八の字にする。
「やっぱ、おかしかった、か?」
「っ!い、いいえ!全然!寧ろ素敵ですよ!」
「ほんとか!よかった!」
静雄は破顔すると、そのまま帝人に抱き着いてきた。
大の大人に抱き着かれた経験がない帝人は途端にあわてだす。
「ちょっ!?静雄さん!?」
「これからよしくな帝人!」
帝人はじゃれてくる犬神にこれは、と心の中で呟いた。
(これは・・・一般常識から教えないとだめなのかな・・・)
ひとまず、他人に抱き着いてはいけないということを教えようと心に決めた。