ドライバーとメカニック
メカニックの気概
「そうだねぇ…リアがルーズかな。まあたまには尻軽なじゃじゃ馬に乗るのも悪くないね。」
ヘルメットを脱ぎ、バラクラバを首元まで下ろすと艶やかな笑顔を振りまく。レーシングスーツの赤と相まって艶やかさがさらに際立って見える。
ファンや女性が近くに居る訳では無いのだが顔を晒す時は大抵この笑顔だ。多分、これが地なのだろうと思われる。
「………そっスか、スンマセン調整しなおします。他に有ります?」
ジーノとは対照的にデータを睨みながらしかめっ面をしているのは赤崎だ。
ジーノ担当エンジニアになってからはしかめっ面の割合が2.5倍になったんじゃ?と周囲の心配を誘っているが、本人的には真剣に仕事をしているだけらしい。
仕事の相手が何しろあのジーノだからと妙な勘ぐりが働いてしまうのだろう。
「あとは、全開で走れると楽しいんだけど?」
「リアがルーズなうちはダメっス。軽めで行ってください。耐久力テストは後回しです」
走行データを確認し終え、顔を上げて目の前のファーストドライバーを睨み付ける赤崎。
この天上天下唯我独尊なファーストドライバーに対して物怖じしない、そして妥協しない態度を取るのがジーノ担当エンジニアを続ける秘訣かもしれない。
赤崎が専属エンジニアになってからはジーノが仕事をボイコットするような事は一度も無い。意外と、と言っては何だが相性が良いのだろう。
何故なら大体の人間はジーノの気に障る事をしないようにと壊れ物を扱う様に接してくる。
そうした態度が逆にジーノの気に障るらしく、難癖付けて仕事をサボることが何度か有った。
この若者、赤崎の場合はとにかく歯に衣を着せない物言いをする。それは相手が誰であろうと変わらない…たとえ相手がジーノであっても。
今までのエンジニアなら言葉を濁してしまうような事も「ダメなものはダメ!」とハッキリ言うので、ジーノ側も変に気を使う必要が無く楽なのかもしれない。
作品名:ドライバーとメカニック 作家名:tesla_quet