しのびよるもの
その日、帝人は大変暇を持て余していた。
学校の無い休日、正臣は用事があるらしく遊べない。(その際「俺と会えないのは寂しいだろうけどごめんな!俺を待ってる可愛い女の子達が居るんだ!!」「何それ用事ってナンパ?」「違う、違うぞ帝人それは誤解だ!何故なら俺はナンパならお前も誘う!彼女達の母性本能を擽る為に!」「うんそれ迷惑だからね」というやりとりが交わされた。余談である)
パソコン作業も特にする事は無く、家事だって常日頃から掃除もしている(というか元々物が少ないので散らかしようがない)帝人は、天気も良い事だし、出掛ける事にした。
日用品を買うのもいいかもな、トイレットペーパーが安売りしていたら買っておこう、と思いながら黄色い看板のドラックストアを覗いていると、ふいに視界の隅に黒い人影が入ってきた。
瞬間、帝人の目が尖る。
何故なら黒い人影(まあつまり全身黒尽くめという事である、何かの比喩ではなく)には、日頃から散々追い掛けまわされていたからだ。
それは黒い人影を見るとそれが彼の人物でなくとも、咄嗟にイラッとしてしまう程の頻度で、帝人自身辟易していた。
彼だって名の知れた情報屋なのだから、そんなに暇なはずはないというのに、何故三日と空けずどころかほぼ毎日帝人の前に現れるのだろうか。
本人は偶然を装っているが、頻度と胡散臭さで台無しである。
無論、お気づきであろうが、彼とは折原臨也の事であった。
帝人はジッと警戒するように臨也を見つめていたが、臨也は気付いた様子なく人ごみを歩いていく。
それは、本当に珍しい事だった。
常に飄々とした笑顔で本心を悟らせない、正体不明とも言える折原臨也が、今、無防備に池袋の街を一人歩いている。
帝人は携帯を取り出しかけて、やめた。
静雄を呼ぼうかと思ったのだが、それでは静雄を不快にするだけだし、公共物とトムの胃にも悪い。
何より、自分をストーキングしてくる、正体不明(誰かは知っているが、何をしているかよく分からないという点において、かなりの度合いの正体不明さだ)の男の実態を知る、良いチャンスだと思ったのだ。
帝人は手に取った商品をサッと売り場に戻し、臨也の後を跟ける事にした。
臨也は特に当ても無く歩いているように見えた。
それでも時たまカクッと路地を曲がっている辺り、目的はやはりあるのか、それとも静雄が着そうな所を避けているのか。
帝人は後者だと思った。
その避けている路地が、よく静雄を見かける場所だからである。
帝人は臨也でも揉め事を避けようとする時もあるのだなあ、とある意味失礼でもある真意を思った。
臨也は時たま道にある服屋のショーウィンドウを覗いたり、アクセサリーを見たり、喫茶店に入ってパフェを頼んだりしている。
帝人も時間差で喫茶店に入り、臨也の座っている位置から見えない場所に案内して貰うと(ウェイトレスのお姉さんは妙な顔をしたが、すぐに営業スマイルにとって変わった。流石の接客業)一番安いコーヒー(お変わり自由)を頼んだ。
臨也を眺めれば、どうやらパフェは食べ終わり食後のコーヒーを飲みながら、携帯を弄っているようであった。
その指捌きは、速い。(帝人も人の事は言えないが)
帝人も釣られるようにして自分の携帯を確認してみれば、新着メールが一件来ていた。
すわ、臨也か?!と思ったが、生憎メールは正臣からだった。
それは長々と綴られてはいたが、要約すれば「変な事に首突っ込んでないか?」と書かれている。
子供じゃないんだから、と多少ムッとしたが、それ以上にそんな風に心配してくれる友達が居ることが、帝人にはうれしくして仕方が無い。
なので、正臣には「大丈夫だよ、心配しないでも」と返したが、ハタ、と気付く。
…あれ?人を跟けるって、変な事じゃない?
僕って今、変な事してる?と思いかけた時、臨也が丁度席を立った。
帝人は慌てて残っていたコーヒーを飲み干すと、臨也に続いて喫茶店を出る。
慌てるまでもなく、臨也は電話が掛かってきたようで、携帯を耳に当てて道の端に立っていた。
帝人は店の前にある植木鉢の影に隠れて、様子を窺う。
微かに聞こえる声から、どうやら臨也は電話の相手と少し揉めているようだった。
暫し口論した後電話を切った臨也は憎憎しげに舌打ちをしていた。(離れてても聞こえるってどれだけ盛大な舌打ち)
そして足早に歩き出す。
今まではゆったりと歩いていたので、帝人は急いで後を跟けた。
暫く路地を歩いていくと(やはり時々変に曲がったりしていた)臨也は急に立ち止まる。
帝人も立ち止まり、建物の影に隠れた。
臨也は携帯を確認すると、苛立たしげにパチンパチンとどこからか取り出したナイフを閉じたり開いたりしている。
物騒だな、と思いながらもそもそもきっとこれから臨也が会うのは、物騒な人なんだろうな、というのはなんとなく予想がついた。
臨也がやりたくないと思っている(であろう)事をするのは、物騒だからだ。
帝人は既に臨也が裏に通じている男だと知っていたし、認めていた。
だからこそ、ストーキングされても我慢していたのだから。(利用する為に!)
学校の無い休日、正臣は用事があるらしく遊べない。(その際「俺と会えないのは寂しいだろうけどごめんな!俺を待ってる可愛い女の子達が居るんだ!!」「何それ用事ってナンパ?」「違う、違うぞ帝人それは誤解だ!何故なら俺はナンパならお前も誘う!彼女達の母性本能を擽る為に!」「うんそれ迷惑だからね」というやりとりが交わされた。余談である)
パソコン作業も特にする事は無く、家事だって常日頃から掃除もしている(というか元々物が少ないので散らかしようがない)帝人は、天気も良い事だし、出掛ける事にした。
日用品を買うのもいいかもな、トイレットペーパーが安売りしていたら買っておこう、と思いながら黄色い看板のドラックストアを覗いていると、ふいに視界の隅に黒い人影が入ってきた。
瞬間、帝人の目が尖る。
何故なら黒い人影(まあつまり全身黒尽くめという事である、何かの比喩ではなく)には、日頃から散々追い掛けまわされていたからだ。
それは黒い人影を見るとそれが彼の人物でなくとも、咄嗟にイラッとしてしまう程の頻度で、帝人自身辟易していた。
彼だって名の知れた情報屋なのだから、そんなに暇なはずはないというのに、何故三日と空けずどころかほぼ毎日帝人の前に現れるのだろうか。
本人は偶然を装っているが、頻度と胡散臭さで台無しである。
無論、お気づきであろうが、彼とは折原臨也の事であった。
帝人はジッと警戒するように臨也を見つめていたが、臨也は気付いた様子なく人ごみを歩いていく。
それは、本当に珍しい事だった。
常に飄々とした笑顔で本心を悟らせない、正体不明とも言える折原臨也が、今、無防備に池袋の街を一人歩いている。
帝人は携帯を取り出しかけて、やめた。
静雄を呼ぼうかと思ったのだが、それでは静雄を不快にするだけだし、公共物とトムの胃にも悪い。
何より、自分をストーキングしてくる、正体不明(誰かは知っているが、何をしているかよく分からないという点において、かなりの度合いの正体不明さだ)の男の実態を知る、良いチャンスだと思ったのだ。
帝人は手に取った商品をサッと売り場に戻し、臨也の後を跟ける事にした。
臨也は特に当ても無く歩いているように見えた。
それでも時たまカクッと路地を曲がっている辺り、目的はやはりあるのか、それとも静雄が着そうな所を避けているのか。
帝人は後者だと思った。
その避けている路地が、よく静雄を見かける場所だからである。
帝人は臨也でも揉め事を避けようとする時もあるのだなあ、とある意味失礼でもある真意を思った。
臨也は時たま道にある服屋のショーウィンドウを覗いたり、アクセサリーを見たり、喫茶店に入ってパフェを頼んだりしている。
帝人も時間差で喫茶店に入り、臨也の座っている位置から見えない場所に案内して貰うと(ウェイトレスのお姉さんは妙な顔をしたが、すぐに営業スマイルにとって変わった。流石の接客業)一番安いコーヒー(お変わり自由)を頼んだ。
臨也を眺めれば、どうやらパフェは食べ終わり食後のコーヒーを飲みながら、携帯を弄っているようであった。
その指捌きは、速い。(帝人も人の事は言えないが)
帝人も釣られるようにして自分の携帯を確認してみれば、新着メールが一件来ていた。
すわ、臨也か?!と思ったが、生憎メールは正臣からだった。
それは長々と綴られてはいたが、要約すれば「変な事に首突っ込んでないか?」と書かれている。
子供じゃないんだから、と多少ムッとしたが、それ以上にそんな風に心配してくれる友達が居ることが、帝人にはうれしくして仕方が無い。
なので、正臣には「大丈夫だよ、心配しないでも」と返したが、ハタ、と気付く。
…あれ?人を跟けるって、変な事じゃない?
僕って今、変な事してる?と思いかけた時、臨也が丁度席を立った。
帝人は慌てて残っていたコーヒーを飲み干すと、臨也に続いて喫茶店を出る。
慌てるまでもなく、臨也は電話が掛かってきたようで、携帯を耳に当てて道の端に立っていた。
帝人は店の前にある植木鉢の影に隠れて、様子を窺う。
微かに聞こえる声から、どうやら臨也は電話の相手と少し揉めているようだった。
暫し口論した後電話を切った臨也は憎憎しげに舌打ちをしていた。(離れてても聞こえるってどれだけ盛大な舌打ち)
そして足早に歩き出す。
今まではゆったりと歩いていたので、帝人は急いで後を跟けた。
暫く路地を歩いていくと(やはり時々変に曲がったりしていた)臨也は急に立ち止まる。
帝人も立ち止まり、建物の影に隠れた。
臨也は携帯を確認すると、苛立たしげにパチンパチンとどこからか取り出したナイフを閉じたり開いたりしている。
物騒だな、と思いながらもそもそもきっとこれから臨也が会うのは、物騒な人なんだろうな、というのはなんとなく予想がついた。
臨也がやりたくないと思っている(であろう)事をするのは、物騒だからだ。
帝人は既に臨也が裏に通じている男だと知っていたし、認めていた。
だからこそ、ストーキングされても我慢していたのだから。(利用する為に!)