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【ふたりは~シリーズ 1 】ふたりはともだち

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第1章 昼休み前



ドラコはあることに夢中になっていた。

「ドラコー、もう昼だよ。授業終ったよー」
クラップが声をかけても、ドラコはそれに夢中になっていて、「んー、分かった」と上の空で返事をする。
「お腹、ペコペコなんだけど。先に行っていていい?」
この声はゴイルだ。
「別にいいぞ」
ノートに顔を落としたまま、ドラコは生返事を返した。
その声に満足したのか、彼のお付きの二人は先に食堂へと行ってしまい、ドラコはひとり教室に居残っていた。

(おーし、もーちょっとで完成するぞっ!)
ドラコは鼻歌でも歌いたい気分で、ペンを走らせているのを、誰かがふいに覗き込んできた。

「まだノートをまとめているなんて、ドラコは真面目だねー。―――って、これは何?」
突然の声にびっくりしてドラコは顔を上げると、ひどく間近にハリーの顔があり、自分のノートを面白そうに眺めている。
「―――ええっ!ハッ……ハリー!どうしてお前がここに?!って、みんなはどこへ行ったんだっ?!」
ドラコはひどく驚いたように、二人しかいないシンと静まり返った教室を見回した。
「だってもうベルは鳴ったよ。昼ごはんで、みんな先に行ったよ」
「そうなのか、気づかなかった」
とドラコはブツブツ独り言のようにつぶやいた。

「で、それは何?」
またハリーはドラコのノートを指差した。
「なっ、なんでもないっ!!」
真っ赤になってドラコはノートを閉じようとしたのを、すかさず手を伸ばして、それを相手の手からひったくった。

「あっ!まて!何するんだ、僕のノートを勝手に見るな!」
取り返そうとするのを、ひょいと逃げて、パラパラとページをめくった。
そして感嘆の声を上げる。
「ドラコ、君、絵を描くの上手だねっ!!ものすごく上手に描くね!これは、スプラウト先生だね?これはトレローニー先生だっ!ひゃー、よく似ているなー。びっくりするよ」
ハリーはページをめくるたびに、「すごい!」を連発した。

それを聞いて、ドラコはまんざらでもない顔をする。
「そんなに似ているか?」
形のいい鼻を少し高くして、ドラコが問う。

「うん、バッチリ特長をよく捕らえているよっ!」
ハリーは盛大に頷いた。
その答えにドラコは結構気分がよくなってきた。
ドラコはこう見えても、人から褒められるのは大好きだったからだ。

「でも、こんなイラスト、いつ描いているの?」
「もちろん授業中に決まっているだろ。暇つぶしに落書きするのは、みんなやっていることじゃないか」
「え゛ーっ、でもドラコはそんなことはしない、真面目な優等生とばかり思っていたけど」
「僕は優等生なフリが上手なだけだ」
とニヤッと笑う。

「ずるいなー、君は!僕なんか、落書きしているとすぐバレちゃって、怒られてばかりだ」
ハリーは顔をしかめる。
「それは日ごろの学習の態度と、目つきが大事だからな」
「日ごろの態度は分かるけど、目つき?何それ?」
「ちゃんと先生の話を聞いていますよって真剣な顔で、時々うなずいて、真面目な顔でノートをとるふりをして、落書きをするんだ。これが落書きの極意だ!」
「なるほどー。君は演技派なんだ」
ハリーはくすくす笑いながら、うなずいた。

「僕の落書きも見る?」
とハリーは手に持っていたノートを広げて、ドラコに見せた。
ドラコも興味津々で、それを覗き込んだ。そして首を傾げる。

「――棒?○?枯れ木?……もしかして、これは人間なのか?」
「そうだよ、決まっているだろ。こっちがスネイプでこっちがマダム・フーチ先生だよ。分かんないの?」
「なんだこりゃー、ひどい絵だな!まるで棒人間だよっ!丸描いてちょんちょんじゃないか!うわっ、でもこのシンプルさが逆にいいぞ、これは!この落書きは結構いい!」
ドラコは突然ツボにハマったのか、涙ぐむほど笑い転げはじめた。

「髪の毛が黒いかそうでないかとか、長い短いだけじゃないか。ひどい手抜きの落書きだなー」
「でも、誰が誰だか分かるだろ?!」
「ああ、なんでか分からないけど、特徴をよくつかんでいるよ。イケてるよっ!」
ひとしきりふたりはお互いの傑作の落書きを見せ合って、笑い転げた。

机を挟むように向かい合って座りながら、気楽にハリーは尋ねてくる。
「―――で、なんで君は一人なの?いつものお付きの二人は?」
「昼飯のほうが大切なのはいつものことだ。置いていかれたよ。君は?」
「今が楽しい時期で、僕はお邪魔虫なこと分かっているのに、わざわざ二人がいつものように昼食に誘ってくるから、隠れてた」
ハリーは笑って肩をすくめる。

「それはご苦労なことだな」
「遠慮なんかするなって言うけど、遠慮したいのはこっちのほうだよ。ロンとハーマイオニーの二人しか分からない話なんかされても、間の僕はどうしたらいいんだよ。まったく!」
少しすねたような顔のハリーを見て、ドラコは苦笑した。

「だったら君も彼女を作ればいいじゃないか。簡単なことだ」
「そんなに簡単に見つかるもんじゃないだろ」
少しドラコは考える素振りをした。

「確かに―――チョウといい、パトマといい、君は面食いだから、誰でもって訳じゃいけないみたいだからな。でもかわいい女の子の上から順番にアタックしていけば、すぐお相手は見つかるさ。安心しろ」
からかうようにドラコは言う。

「でも前は顔で選んで失敗したから、今度は気の合う子がいいなー。もう相手に振り回されて、あんな喫茶店に入るなんて真っ平だっ!」
「ああ、あの店か……。レースたっぷりの中で居心地悪そうに座っている英雄殿を、僕もぜひとも見たかったよ」
「あんな恥ずかしい思いをするぐらいなら、もう彼女なんかいるかっ!」
ハリーはむすっとした顔で、少し顔を赤らめてぼやいた。
ドラコはおもしろそうに、相手を見ている。


──こういう風に普通に話すようになって、まだ1週間しか経っていないことが不思議でならなかった。
それより以前は、顔を合わすたびに喧嘩ばかりしていたのが嘘のようだ。

羽ペンの先を指先で持て遊びながら、ハリーは気軽に尋ねてくる。
「ドラコ、昼ごはんはどうする?」
もう呼び名もファーストネームで呼びあうことに、ふたりとも別に抵抗なかった。

「ああ、遅れたけど今から食べに行くけど、なぜだ?」
「僕はあんまり行きたくないなー。ロンとハーマイオニーの間で食べるのも気が引けるし、ひとりでポツリと食べてもおいしくないしなー。君のいるスリザリンテーブルで食べちゃダメかな?」
「うーん………、やっばり変な噂が立つから、それは止めておいたほうがいいぞ。君たちの3人の友情にヒビが入ったとか、―――っていうか、関係のない僕までとばっちりを食って悪者にされそうだらか、絶対に止めてくれ!」
ハッという感じでドラコは慌てて頭を振った。

「僕がスリザリンの狡猾さで君をたらしこんだとか、きっと変な言われるから、絶対に来ないでくれっ!」
「君は冷たい!ああ、本当に冷たいぞ!!やっぱり、僕はひとりぽっちで、誰からも相手にされないんだ」
ハリーがじろっとにらんで、ふて腐れた顔になる。

「そんなことはないさ。君は人気者じゃないか、ハリー。君と友達や知り合いになりたいやつなんか、山ほどいるさ。安心しろ」