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【Secretシリーズ 1 】Secret -秘密-

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第3章 秘密



「これは君がいた屋敷なんだけど、覚えていない?」
ハリーから差し出された写真をじっと見るが、やがて頭を振った。
「………ああ、ごめん。何も思い出せないや」
「いいよ、別に。ゆっくりと思いだしたんで、いいからね」
「ありがとう、ハリー」
ドラコはニッコリと笑った。

「ところで、ドラコ。僕はずっと背中に君が乗って寄りかかられて、とても重たいんだけど」
「………ああ、そうだね」
そう言いながらもドラコはハリーの背中に抱きついて、そこから彼の手にある写真を覗くことをやめようとはしなかった。
「重たい」と言いながら、ハリーはひどく嬉しそうだ。
ふたりは目を合わせて、笑いあってキスをする。

ドラコはあれから片時もハリーから離れようとはしない。
盲目的なほど、ハリーの後をばかりを追っていった。
それがあまりにも不自然なことは、周りにいる誰もが思っていたが、あえて口には出さない。
そして、その渦中にいるドラコにいったては、全く気づいていなかった。

淡い水色の瞳はいつもハリーのあとばかりを見ている。
それが自分の全てだという感じで、ハリーを見つめた。

──あの学園にいたころの辛らつな態度のドラコはどこにもいない。
高慢で高飛車で人を出し抜き少しでも優位に立とうとする、純血を何よりも誇った彼。

実はハリーはあの頃から、ずっとドラコのことが好きだった。
だけど、彼らの立っている立場は、あまりにも離れすぎている。
ハリーがどんなに相手のことを好きになろうと、それが叶えられるはずないと思っていた。

―――そう、あのときまでは。



ある作戦を言い出したのは、頭のいいハーマイオニーだった。
「ドラコをこちらの陣営に連れてきて、敵の情報を探り出す」という計画だ。

あのドラコのことだ。絶対に言うことを聞かないことは、分かりきっていた。
彼女の考えた方法はいささか乱暴で魔法界の掟をやぶっている。
だけど今、自分たちは追い詰められて、それどころではない危機的状況なので、みんなは文句もなく全員が賛成した。

彼の屋敷に忍び込み、ドラコに強い記憶を混乱させる薬を飲まして、強引に略奪してくるのだ。

薬の作用で意識が白濁しているときに自分たちが味方だと、記憶のすり替えをした。
あの切羽詰った逃亡生活は、そのためにもある。
追っ手はドラコを助けようというマルフォイ家のもので、ドラコの味方だ。
だが追ってくる相手は敵でいっしょに逃げているのは、自分の大切な仲間だと刷り込まれる。
何度も何度も、助けてくれるのはこのハリーだけだと言い聞かされて、記憶の組み換えが行われた。
やがて逃亡生活の終盤には、完全に記憶が入れ替わったドラコがいた。



今、彼のすべての信頼はハリーに注がれている。
ドラコの世界はハリーを中心に回っていた。

寝ても起きても、ふたりはいつもいっしょに行動をともにした。
別行動をしようとすると、ドラコの精神が途端に不安定になるので、無理に二人を引き裂くものなどいなかった。

ハリーが手を伸ばせば、いつもそこにはドラコがいて、自分に向かって笑いかけてくれた。

――――幸せだった。

例えこれが作られたみせかけの幸福だとしても、ハリーはそれでよかった。


笑って何度もキスをした。
抱きしめると、とても幸せになる。
まるで本当の恋人のようだ。
すべてが夢のように幸せだった。

孤児のハリーは今まで、誰からも愛された記憶がなかった。

何が愛か、今でも分からない………。

ただ、ハリーはドラコのことが好きだった。
その夢にまで見た彼が、自分に向かって笑いかけてくれる。

………もう、それでいいじゃないかと思ってしまう。
これ以上望むものではないと。

偽者でも、作られたものでも、幸福は幸福だ。

たくさんの――――、自分が持っているたくさんの愛情を、今、自分のとなりで笑っているドラコに注ごうと思った。
彼の記憶が戻れば、きっとそれは消えてしまうだろう。
何もなかったように思い出は消滅してしまい、そこには何も残らない。

――――それでもよかった。

ハリーはぎゅっと相手を抱きしめた。
安心したように、ドラコは抱きしめ返してくれる。

ハリーはなぜだか、とても泣きたいような気分だった。
幸せなのか、不幸なのか、もう分からない。

ハリーの胸の中のどこかが、キリキリと痛んだ。
眩暈がするほど、辛くて、苦しい。
―――そしてそれと同じくらいの幸福。
つまり、恋というものはそういうものだ。

今だけは、ドラコは自分のものだ。

幸福は目の前にある。



──永遠にも似たこのひとときがずっと、
        続いてくれることを、彼は願った――――

    
    ■END■