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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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「痛いキス」


帰って来ないギルベルトをフリードリヒ国王はずっと待っていた。


陣営の天幕の中は暗く、外では土砂降りの雨になっている。

昨夜も雷雨が激しかった。
ギルベルトはどこかで雨宿りをしたのだろうか。
今夜も帰って来ないとなると・・・・・・兵をやって探しにいかないと・・・・。


さすがに一日以上、ギルベルトが陣営に帰ってこないとなると、国王も彼に、何かあったのだと心配せざるを得ない。

「彼女」には会えたのだろうか?
積もる話をしているのならいいのだが・・・・・・。
戦は落ち着いている今の状況だからこそ、彼女に彼に会うように薦めたのだが・・・・・。

この戦はあとはもう終わらせるだけだ。
どんなにオーストリアがあがいても、シュレジェンはもうプロイセンのものとなる。

(・・・・余計なことだったかな・・・。)

ギルベルトの心の底の、恋心に気づいているからこそ、ハンガリーが参戦したとしって、
「彼女」がいるだろう場所をわざわざ探らせ、ギルベルトを送りこんだのに・・・。

(慣れないことをするでない、という事か・・・・・。自分の恋ですら成就させたことがないくせに・・・!)

フリードリヒは、自嘲するように口元をゆがめた。



外で、ガタンと音がした。
フリードリヒは、はっとなって、思わず外に出た。

天幕の外にその姿があった。
暗さと雨のせいで、なんとかギルベルトと認識できる程度だ。


ずぶぬれのギルベルトの肩が震えている。
髪から水が滴り落ちて顔にかかっている。
その頬に流れ落ちる水滴が涙なのか、雨なのか、フリードリヒにはわからなかった。
ギルベルトから獣の様な嗚咽が漏れる。

その体を国王はしっかりと抱きしめてやる。
国王がぬれるのを厭ってか、ギルベルトが身をひこうとする。


背中を子供にするように優しくたたいてやると、ギルベルトは体を震わした。
最初は小さな声だったが、国王がそっとその顔にキスしてやると、たまらなくなったのか
声をあげて泣き始めた。

「・・・・・泣きなさい・・・・好きなだけ・・・・な。」

「・・・・う・・・・・・・」

ギルベルトのひざが崩れ落ちて、フリードリヒの前に座り込んだ。
野獣の様な嗚咽が響く。

天幕に入ってきた侍従が、声を上げて泣く「国家殿」を見て、とまどっている。
フリードリヒは、手を伸ばして侍従のもってきた浴布を受け取ると、ギルベルトの髪や顔を拭いてやる。


見た目や態度よりも、ずっと繊細で真面目な、この青年の、心の奥底、魂からの嘆きの声だった。
フリードリヒは、自身の苦い経験を思い出していた。
あの焼けつくような苦しみと哀しみ・・・・・・。
絶望と胸をかきむしるどうしようもない痛み・・・・・・・。

「泣きなさい・・・・・お前の気のすむまで・・・。」

何があったのかはわからない。
でも、こんな風に泣くギルベルトの姿を見れば・・・・・。
こんな風に泣かせる結果になったことを、国王は心の中でギルベルトに詫びた。

それでも会わせてやりたい、敵同士になってしまった今だからこそ、直接会って、話をすることで何か
えられるのではないかと思ったのだ。

ギルベルトの昔からずっと持っている思いを、国王は、いつしか自分の忘れかけた古い恋と重ねていた。
今回の戦の相手は、国王フリードリヒの思い人だったあの王女・・・・。
「彼女が敵」、となったのは、自分が彼女に戦いをふっかけたからだ・・・・・・。


それに、結局ギルベルトをまきこんでしまったか・・・・。
彼は自覚すらしていないようだったのに・・・・・。
その「恋」に気づいて、そして終わってしまったのか・・・・・・。


銀色の髪からおちるしずくが国王の衣服に落ちる。
流れ落ちる涙も一緒に、王の衣服を冷たくぬらす。


泣いてすむような思いではない・・・・。
失った恋の思いは、消えてなくなってはくれずに、心を焼き続ける。
しかし、泣くことで、心はいくぶん落ち着きを取り戻すことができるのだ。
痛みは時がいつか癒してくれる・・・・・・。

今はたとえ、胸がはりさけんばかりの痛みと苦しみであっても・・・・。
フリードリヒは経験上知っていた。


国王の腕の中で、ギルベルトはいつまでも、嗚咽し続けていた。



***********************************

後に、「継承戦争」と呼ばれるプロイセンとオーストリアの戦い。
一方的にシュレジェンを奪われたオーストリアの抵抗も限界に近づいた頃、ハンガリー軍の参戦により、状況が一変しようとしていた。
プロイセン・フランス・ザクセンはそれぞれ、欲しいものを奪うと、さっさと条約の締結をしてしまおうと画策していた。
そんな時期・・・・・・・・。



敗残兵から金品を奪おうとしている夜盗どもを追い払うと、エリザベータは自国の兵士達と供に、戦場の跡地に転がる遺体を埋葬していた。

「ハンガリー様。ここの遺体は全て敵軍も兵士のものです・・・。」
「わかってる。でも・・・埋葬してあげて・・・・。簡単でいいの。」
「しかし・・・・・我らもそろそろ引き上げたほうがよいのでは?あまりここに残っているとオーストリアから疑いの目を向けられますし、いつプロイセンやフランス軍が来るとも限りません。」
「ええ・・・・。そうね・・・・・・。じゃあ・・・・・貴方たちは先に部隊をまとめて帰っていて。ここの埋葬を済ませたら、すぐに私も帰るわ。数人、護衛を残しておいてくれればいいわ。」
「しかし、国家様・・・・危険では・・。」
「大丈夫。すぐに戻るわ。オーストリアさんに報告しなきゃならないし、この辺りをもう少し見回ったら帰るから。」

戦場での悲惨な情景。
これはいつ、どんな時でも同じだ。
いつでも最前線で戦う兵士たちは捨て置かれ、埋葬すらしてもらえない。
どんなに「甘い」と言われようと、エリザベータは、彼ら末端の兵士たちを見捨てることなど出来なかった。
長年、数世紀にわたって分断され、大国の下に置かれていた自国:ハンガリー。
大国の都合のいいように使われている「自分」。
戦場で打ち捨てられている兵士たちの姿は、その自分と重なって見える・・・・・・。

この無理やりの戦を仕掛けてきたプロイセン軍。
敵の兵士たちがここに転がっている。
憎い敵のはずなのに、もの言わぬ姿となった今、自国の亡くなった兵士と何が違うというのだろう。
放置されてカラスや夜盗たちに荒らされる前にせめて土だけでもかぶせてやりたい。

その時、突然、背後から声がした。


「貴女が・・・・・埋葬してくださったのかな?うちの兵士たちを。」

エリザベータが声に振りかえると、後ろの丘の上にフリードリヒ2世、プロイセン国王その人が立っていた。
間違えようがない。
肖像画にも描かれたその姿。

エリザベータの護衛の兵士たちに緊張が走る。
しかし、相手の護衛の兵もまた、少人数だった。
敵国の国王の姿に驚いて息がとまりそうになる。
切りつけようか、捕えようか迷った。
向こうもこちらも、兵士は数人。
こぜりあいになっても、お互いに損・・・・・。
しかし、敵の国王をとらえれば・・・・・!