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【ギルエリ】 「痛いキス」 ノベリスト版に改訂

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しかし、すぐにそんな気はなくなった。
丘からハンガリーの方へ歩いてくるこの国王を見た途端、その気が失せた。

深く青い瞳。金色に輝く長髪。
背は低いが、堂々とした王たる態度。
それでいて、相手に対する真剣な態度と口調の丁寧さ。
生まれつきの「王」という者が持つ、独特の空気のようなものをこの国王は身にまとっていた。
気圧されるほどの威圧感。
しかし、にこやかにほほ笑む表情は、なにか心惹かれるものがあった。
エリザベータは、敵国のこの国王をみた瞬間、なぜか彼と話したいと思ったのだ。

「どちらの兵士にしろ・・・・死者に罪はありませんから・・・・。」
「それでも、憎い敵とわかっている者から略奪もせずに、こうして丁重葬ってくださるとは。貴女は優しい方なのだね。」
「うちの兵士たちのついでだったので・・・。」
「それでも、敵の兵士に対して情けをかけてくださる・・・・・。並みの者に出来ることではないと思うが。」
「その・・・・・・・お聞きしてもよろしいですか?」
「私に? 何を聞きたい?」
「どうして、このようなところにおいででいらっしゃいますか?フリードリヒ国王陛下。」

とたんにフリードリヒは、にこりと笑った。

「そなたは・・・ハンガリー・・殿かな?私が国王とわかるのかね?」
「はい。陛下。一応、戦闘が終わったとはいえ、ここは貴方様にとってはまだ敵地です。どうしてこのようなところに・・・・?」
「・・・・・うちの兵士の遺体を引き取りに。追剥どもに衣類をはがれてどこの誰かもわからないのでは、残された兵士の遺族に申し訳がたたない。」
「・・・・・・・国王たる貴方様がそれを申されますか・・・・・。」


エリザベータの言は、フリードリヒがオーストリアを勝手に攻めて、こうして憐れな死者をだす戦争をおこしたことを指すのか、それとも、国王たるものが下賤の一介の兵士の一家を思うことを指しているのか・・・・。

怒るどころか、ますますフリードリヒは、にこやかな表情になる。

「この戦場で、貴女とお会いできるとは。ここへきて良かったな。少し、話がしたいのだが・・・いいかね?」
「はい。陛下。私もお聞きしたいことがございます。」

ハンガリーの兵士たちは、はらはらしながら敵国の王と話す「国家殿」を見つめる。
プロイセンの護衛の兵士たちは、国王の突飛な行動に慣れているのか、周囲とハンガリー兵を警戒するだけで、戦おうという気配はない。


「貴女がハンガリー。いつも噂は聞いていたよ。ああ、貴女とうちのプロイセン・・・・ギルベルトは幼なじみだそうだね。」
「・・・・・・まあ・・・・そんなものです。」

エリザベータの顔に浮かんだ複雑な表情を面白そうに見ながらプロイセン国王は続ける。

「・・・・今回・・・・私はオーストリアからシュレジェンを奪ったが・・・・。貴女が参戦してくるとは思わなかった。どうして、この戦に出てきたのかね?」

あまりに率直な国王の問いにエリザベータは呆れてしまった。
この「人」は、哲学者を目指しながらも、やることは狡猾で計算高いと聞かされている。
それがあまりにも率直なこのもの言い・・・・・・。

「・・・・・・我が宗主・オーストリアを助けるのは当然かと思いますが・・・・。」
「ふむ・・・・。あの女帝に説得されたからと。貴女の家の議会に通いつめて助力を願ったと聞き及んでいるが、本当かね?」
「はい・・・・・。女帝自ら嘆願なさったからこそ、私も参戦しました。陛下・・。」
「ああ、聞きたい事があるとか?なにかね。」
「どうして、いきなりシュレジェンを奪いに来られました?領土拡張は陛下のご意志でしょうか?」
「ああ。私「個人」の・・・国王として、私の野心から起こした戦だよ。シュレジェンを手に入れれば、我がプロイセンの利益は計り知れない。もっとも欲しかった地だ。」
「・・・・・・・陛下個人の?誰かにたきつけられたわけではないのですか?」

フリードリヒは破顔した。
国王になってからというもの、ここまではっきりと彼に聞いて来るものはいない。
それはプロイセン=ギルベルトくらいのものだ。

「私の国で、私に強制できるものはないな。いまのところね。我がプロイセンにとって、シュレジェンは非常に重要な拠点となる。それは今後の我が国の工業を見ていただければわかるだろう。」
「・・・・このまま・・・・オーストリアやロシア・・・・他のドイツ諸国が黙っていないと思うのですが。」
「うん。そうだね。だが、私としてもそのあたりは考えている。貴女には迷惑だったね。
不本意な戦い・・・と言ってもいいかな?貴女の戦いは本当に見事だったのに、こうして、うちの兵士を埋葬してくださる・・・・。なにか迷いがあると思うが。違うかね?」
「迷い・・・ですか・・・。貴国と戦う事に迷いはありません。我が宗主国を助けると決めましたから。ただ・・・陛下の、ご即位なされたばかりでのこの戦・・・。驚くばかりです。」
「そうだな。私の著作や振る舞いを知る者からすると、今回の戦は私の意志とは思えないだろう。だが、貴女が思っているようなことはないよ。我が「プロイセン」が「無理やり私にオーストリアを攻めさせた」とか・・・・。」

とたんにエリザベータは真っ赤になった。

今回の「継承戦争」は、プロイセン=ギルベルトが若い啓蒙主義者の国王を牛耳って無理やり起こさせた戦だと、「国」たちの間ではもっぱらの噂だった。
エリザベータもそれを鵜呑みにして、こうしてやってきたのだ。


「プロイセン・・・・まあ、ギルベルトも止めなかったがね。彼も驚いていたくらいだから。今回の戦に関しては。そうだ。ギルベルトに直接聞いてみるといい。彼は今、向こうの丘の陣営に残っているよ。」
「いえ・・・そのような事は・・・・。」
「君達は幼なじみなんだろう?貴女の話はずっとプロイセンから聞いていたからね。いや、会えて良かったな。貴女がどういう方なのかわかった気がする。遠慮せずにプロイセン・・ギルベルトのところへ行ってきたまえ。ああ、うちの兵士の事なら通行証を書いてあげよう。」
「はっ?あの・・陛下・・!!別にギルベルトに会いたいわけじゃ!」
「遠慮しなくてもよい。ギルベルトはしょっちゅうオーストリアにいる貴女に会いに行っていたのだろう?こうして私のせいで、敵味方になってしまったが・・・・。まあ、つもる話もあるだろうから。これ、ペンを持っているかね?」

エリザベータが止める間もなく、国王は侍従が持つ紙にさらさらと自筆のサインをかきいれた。
「よし。これで、貴女はいつでも、私かプロイセンのところに自由に通行出来る。
他に何か質問はあるかね?」
「は、いえ。陛下。」
「では。ここのうちの兵士の埋葬は私がきちんと行おう。貴女には本当に感謝している。これは、ほんのお礼だよ。」

にっこりと笑って、許可証を差し出す国王に、仕方なくエリザベータはそれを受け取った。

「ああ、そうだ。私はベルリンではなく、今、建設中のポツダムの城にいるのでね。良かったら見学においで。小さいが美しい城になるだろう。では、ハンガリー。また会えるといいな。楽しかったよ。」