水中に浮かぶ星空に包まれて
控えめに照らされた照明の影響によって水がキラキラと輝いている。それは夜に輝く星に似ているな、と月子は思った。そして、その水の中をイワシの大群が気持ちよさそうに泳いでいる。その、鱗もまた光が反射してキラキラと輝いている。
「まるで大きな流れ星がゆっくりと流れているみたいだね」
「月子先輩、面白いことを言いますね」
「そうかなぁ。今が夜だからかもしれないね」
「そうですね。ここをデートの最後のスポットにして正解でした」
何気なく梓はつぶやいた。その言葉に少し月子は胸が痛んだ。
次に行きましょうか、と梓は月子に手を差し伸ばす。月子はハニカミながら彼の手を握る。
距離が近くなることでドキドキという鼓動の音が彼に伝わらないか心配になる。
「先輩、僕と何度も手を繋いでいるんですから緊張しないでくださいよ」
「そうなんだけど……。今日は緊張しちゃう、かな」
月子の言った言葉に梓は何か言おうとしたが、何も言わず歩き始める。二人が次に向かった場所はトンネル型の水槽。そこは青い光で照らされて、様々な魚が伸び伸びと泳いでいる。
その水槽の大きさに、雄大に魚が泳いでいる姿に、月子は心を奪われる。すごい、すごいとはしゃぐ姿に梓は少し嫉妬する。
「梓君、すごいねー。もうちょっとここが暗くて発光器って言うんだっけ。自分で光ることが出来る魚がたくさんいて、泳いでいたらそれこそ生きた夜空って言ってもいいかもしれないね」
「そうかもしれませんね。でも、発光器がある魚ってたいてい自分の身を守るために光ることが多いらしいですよ。普段はあまり光ることがないとか」
「そうなんだ……。梓君は物知りだね」
「月子先輩が興味を持ちそうなものには先走って知識を入れるようにしているんですよ。こうやって、水槽のすごさよりも僕の知識が豊富なことにすごいと思ってもらいたいと思って」
そう言って梓は月子を抱き寄せる。急に抱き寄せられて月子は顔を赤くする。周囲には誰もいないが、急な距離にドキドキと鎮まったはずの鼓動が再び動きだす。
「……月子」
自分の名前を呼んだ、梓。だけどそれは先輩付けではなく呼び捨てで。普段とは違う呼び方だからさらに月子の鼓動は高まる。
「やっぱり、まだ貴女を呼び捨てで呼ぶことはできませんね。しばらくは先輩って言いますけど、あと少し……最初のフライトを終えたときまで……」
「……ねぇ、本当に宇宙に行っちゃうの？」
最初のフライト、という梓の言葉に心臓の鼓動は恥ずかしいとか緊張という意味ではなく、不安という意味で奏で始める。
「もちろん。宇宙へ飛び立つのは僕の夢ですから」
「そう、だよね……」
自信たっぷりに言う梓に対して月子は目を伏せる。
梓が宇宙飛行士を目指して一生懸命だったのはずっとそばに居た月子自身がよくわかっている。だから、史上最年少で宇宙飛行士になったというニュースを知った時、梓よりも月子の方が喜んでいた。
だけど、宇宙へ飛び立つというのは難しい。もしも、という場合があるのだ。
その、“もしも”を考えると月子はとても不安になる。こうやって梓に抱きしめられているのはこれで最後なのでは、と思うと怖い。
月子の不安が伝わってきたのか、梓はフッと笑みを浮かべる。急に笑みを浮かべた梓にどうしたの、と月子は尋ねる。
「いいえ、先輩が僕のことをとても心配しているんだなぁって思うと嬉しくて。つい」
「わ、笑い事じゃないよ。もしもフライトが失敗したらとか考えると不安で……」
「月子先輩。そんなに不安な顔をしないでください。僕なら大丈夫です。失敗なんてさせません。必ず史上最年少という栄誉あるフライトを完璧に遂行します。そして、再び月子先輩抱きしめて、」
片方の腕で月子を抱きしめて、もう片方の手は彼女の頬に添える。そして、月子の顔を固定して、梓はどんどん顔を近づけていく。月子はそっと瞳を閉じた。
唇と唇が触れあった。梓は月子の温もりを、月子は梓の温もりを、唇を通して感じる。
お互いの温もりを十分堪能して、唇を離す。視線が絡み合う。
「抱きしめて、月子先輩の唇にキスをします」
「本当に無事に帰ってきてくれる？」
「もちろんです。僕は嘘を付きませんよ。特に月子先輩に対しては」
「ふふ。そうだね」
不安でいっぱいの顔をしていた月子にようやくいつもの笑みが戻ってきて梓は月子にばれないように安堵の息をつく。
しばらくその場で抱きしめあって、甘い空気の余韻に浸っていた月子だったがふと我に返って慌てだす。
「あ、梓君！」
「はい。いきなり慌ててどうしたんですか？」
「ここ、水族館……」
「えぇ、そうですけど。それが何か」
「……誰かに見られ」
見られて、と言いかけた月子の唇を梓は人差し指で封じる。
「見られてもいいじゃないですか。僕らはこうやって愛し合っているんですから」
「そ、そうだけど……でも、恥ずかしいよ」
「そんな恥ずかしがり屋の先輩に朗報です。今このフロアには僕たちしかいません。なので、誰かに僕たちの熱愛を見ている人はいません。……それに、僕も月子先輩との恋愛を誰かに見られたくありませんし」
「梓君……。もしかしてわかってキスをしたの？」
「さぁ。それはどうでしょう」
クスリと笑って梓は月子の手を取った。まだ、回っていないところがあるから回りましょう、と
「まるで大きな流れ星がゆっくりと流れているみたいだね」
「月子先輩、面白いことを言いますね」
「そうかなぁ。今が夜だからかもしれないね」
「そうですね。ここをデートの最後のスポットにして正解でした」
何気なく梓はつぶやいた。その言葉に少し月子は胸が痛んだ。
次に行きましょうか、と梓は月子に手を差し伸ばす。月子はハニカミながら彼の手を握る。
距離が近くなることでドキドキという鼓動の音が彼に伝わらないか心配になる。
「先輩、僕と何度も手を繋いでいるんですから緊張しないでくださいよ」
「そうなんだけど……。今日は緊張しちゃう、かな」
月子の言った言葉に梓は何か言おうとしたが、何も言わず歩き始める。二人が次に向かった場所はトンネル型の水槽。そこは青い光で照らされて、様々な魚が伸び伸びと泳いでいる。
その水槽の大きさに、雄大に魚が泳いでいる姿に、月子は心を奪われる。すごい、すごいとはしゃぐ姿に梓は少し嫉妬する。
「梓君、すごいねー。もうちょっとここが暗くて発光器って言うんだっけ。自分で光ることが出来る魚がたくさんいて、泳いでいたらそれこそ生きた夜空って言ってもいいかもしれないね」
「そうかもしれませんね。でも、発光器がある魚ってたいてい自分の身を守るために光ることが多いらしいですよ。普段はあまり光ることがないとか」
「そうなんだ……。梓君は物知りだね」
「月子先輩が興味を持ちそうなものには先走って知識を入れるようにしているんですよ。こうやって、水槽のすごさよりも僕の知識が豊富なことにすごいと思ってもらいたいと思って」
そう言って梓は月子を抱き寄せる。急に抱き寄せられて月子は顔を赤くする。周囲には誰もいないが、急な距離にドキドキと鎮まったはずの鼓動が再び動きだす。
「……月子」
自分の名前を呼んだ、梓。だけどそれは先輩付けではなく呼び捨てで。普段とは違う呼び方だからさらに月子の鼓動は高まる。
「やっぱり、まだ貴女を呼び捨てで呼ぶことはできませんね。しばらくは先輩って言いますけど、あと少し……最初のフライトを終えたときまで……」
「……ねぇ、本当に宇宙に行っちゃうの？」
最初のフライト、という梓の言葉に心臓の鼓動は恥ずかしいとか緊張という意味ではなく、不安という意味で奏で始める。
「もちろん。宇宙へ飛び立つのは僕の夢ですから」
「そう、だよね……」
自信たっぷりに言う梓に対して月子は目を伏せる。
梓が宇宙飛行士を目指して一生懸命だったのはずっとそばに居た月子自身がよくわかっている。だから、史上最年少で宇宙飛行士になったというニュースを知った時、梓よりも月子の方が喜んでいた。
だけど、宇宙へ飛び立つというのは難しい。もしも、という場合があるのだ。
その、“もしも”を考えると月子はとても不安になる。こうやって梓に抱きしめられているのはこれで最後なのでは、と思うと怖い。
月子の不安が伝わってきたのか、梓はフッと笑みを浮かべる。急に笑みを浮かべた梓にどうしたの、と月子は尋ねる。
「いいえ、先輩が僕のことをとても心配しているんだなぁって思うと嬉しくて。つい」
「わ、笑い事じゃないよ。もしもフライトが失敗したらとか考えると不安で……」
「月子先輩。そんなに不安な顔をしないでください。僕なら大丈夫です。失敗なんてさせません。必ず史上最年少という栄誉あるフライトを完璧に遂行します。そして、再び月子先輩抱きしめて、」
片方の腕で月子を抱きしめて、もう片方の手は彼女の頬に添える。そして、月子の顔を固定して、梓はどんどん顔を近づけていく。月子はそっと瞳を閉じた。
唇と唇が触れあった。梓は月子の温もりを、月子は梓の温もりを、唇を通して感じる。
お互いの温もりを十分堪能して、唇を離す。視線が絡み合う。
「抱きしめて、月子先輩の唇にキスをします」
「本当に無事に帰ってきてくれる？」
「もちろんです。僕は嘘を付きませんよ。特に月子先輩に対しては」
「ふふ。そうだね」
不安でいっぱいの顔をしていた月子にようやくいつもの笑みが戻ってきて梓は月子にばれないように安堵の息をつく。
しばらくその場で抱きしめあって、甘い空気の余韻に浸っていた月子だったがふと我に返って慌てだす。
「あ、梓君！」
「はい。いきなり慌ててどうしたんですか？」
「ここ、水族館……」
「えぇ、そうですけど。それが何か」
「……誰かに見られ」
見られて、と言いかけた月子の唇を梓は人差し指で封じる。
「見られてもいいじゃないですか。僕らはこうやって愛し合っているんですから」
「そ、そうだけど……でも、恥ずかしいよ」
「そんな恥ずかしがり屋の先輩に朗報です。今このフロアには僕たちしかいません。なので、誰かに僕たちの熱愛を見ている人はいません。……それに、僕も月子先輩との恋愛を誰かに見られたくありませんし」
「梓君……。もしかしてわかってキスをしたの？」
「さぁ。それはどうでしょう」
クスリと笑って梓は月子の手を取った。まだ、回っていないところがあるから回りましょう、と
作品名：水中に浮かぶ星空に包まれて 作家名：桜風つばき