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お兄ちゃんのお嫁さん

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***



「ーーーよくないよ、全然!」

 久しぶりに幼い頃の夢を見て、帝人は飛び起きた。まるでスプラッタな悪夢を見た時のように動悸が激しい。心臓がばくばくいっている上、酸素が足りないのかこめかみもずきりと痛んだ。本当に悪夢のようだ。
(いや、悪夢そのものだよ本当に)

 かつての幼子もすくすくと成長し、ついに今年で法的な結婚さえ許される年になる。そんな年になったということは、つまり今もまだ兄と呼んでいるあの男があの時、幼児の自分に向かっていかに非人道的な発言をしていたのか、理解できるようになったということである。
 何の前触れも無く、笑いながら6歳児に「実はお前は貰われっ子でした」と暴露するなど、信じられない外道だと今の帝人は思う。あの時のショックは忘れられない。

(大体、何が『家族になりたければ俺と結婚するしかないんだよ』だ…。僕は赤ん坊の時点で折原家にきちんと養子縁組されてるんだから、それで十分家族って呼んでいいはずじゃないか)

 そしてショックで動揺している6歳児に、嫁になれば全て解決すると畳み掛けた中学生。これが悪夢の図でなくてなんだというのか。いくら幼かったとはいえ、あの時素直に頷いてしまったことが悔しい。今そんなことを臨也から言われたなら、全力でツッコミ及びボールペンもしくはローリングソバットをお見舞いしてやるのに。
(イザ兄は本当に、たちの悪い冗談ばっかり言うんだからなあ)
 そう考えてため息をつきながら、帝人はベッドから降りた。
 結局あの一件以来、臨也から嫁だの結婚だのという単語が出たことはない。その当時双子にもなにやらおかしなことを吹き込んでいたらしいと後で知り、多分そうやっていろんなことを言って妹たちの反応を見たかったのだろう、嫁とかいうのは本気じゃなかったんだろうと帝人は考えている。

「そうだよね、いくら血は繋がってなくても、ずっと一緒に暮らしてきた僕に、そんな気起こさないよね」

 最も臨也は高校卒業と同時に実家を出てしまってはいるが。でも兄と妹という関係が崩れることはないはずだ、と帝人は思う。幼い頃は知らなかったが、遠く離れたところで生活していたとしても、家族は家族なのだから。

 顔を洗って着替え、気持ちを切り替える。さてこれから朝食を作って双子を起こしてーーーと、いつもの朝の予定をこなそうとリビングに入ったところで。

「おはよう、帝人」
「イザ兄!?え、なんでいるの?」
「ちょっと荷物をとりにきたんだよ」

 兄が当たり前のようにいたので驚いた。「朝食食べていく?」と尋ねると「うん、じゃあもらおうかな」との返事。

 久しぶりに見た兄は、今朝の夢よりもずっと大人びた姿だ。当たり前だ、もう中学生ではない、立派な大人なのだ。精神もちゃんと外見にあわせて成長したかどうかは怪しいが。
 思わずじっと見てしまい、視線に気づいた臨也が帝人を見た。光の加減で眩しいのか、少し目を細めるようにして見つめられ、妙にどきりとする。「コーヒーと、あとトーストでいいかな。卵は?」などと言い訳のように早口で言いながら、帝人は逃げるようにキッチンに行こうとすると、「あー、うん、うーん…」という、兄にしては妙に歯切れの悪い返答が聞こえた。続いて「帝人も育ったよね…」という、感慨深げな声がして。
(父親か!)
 と言ってやろうとした瞬間。

「お嫁さんまでもう少しか」

 

 思わず振り返った帝人の目に映ったのは、かつて愛してると囁いた少年と同じ笑顔の男だった。




作品名:お兄ちゃんのお嫁さん 作家名:蜜虫