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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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Calvados

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YOU LOST

「現実世界でどんな影響が出るか、愉しみですねぇ~」
 井種田の他人事だと心底愉しむ声に公麿はげんなりしながらシートに身を埋めた。



 敗戦による現実世界への影響は怖ろしいほど何もなかった。とはいえ、金融街から直接バイト先のコンビニへと向かった為、自宅のアパートはまだ確認していない。帰宅したら、アパートが無かったなんて洒落にならない状況も待っていることもあるのだ。
 バイトを終え外に出ると、見慣れた男がガードレールに腰を預けている。
「み、三國さん……?」
 前にもこんな場面はあった。初めて彼と出会ったときも、彼はこうしていたはずだ。彼がこんな所に居るのは、間違いなく自分に用があるということだ。それが、先程のディールに関係あるとすれば、ゴクリと息を呑み込んだ
「ちょっとね……。送ってくよ」
「…………?」
 立ち上がった三國は公麿のアパートの方へと向かって歩いていく。彼に家までは教えてはないはずだが、彼の情報力を持ってすれば容易いことだろう。それとも、なにか自分の負けは大きな影響を現実にもたらしてしまったのだろうか、ぐるぐると考えを巡らせたまま前を歩く男の後についていった。
「いや、金融街から戻ったら、君の荷物が部屋にあってね……」
 アパートの前で足を止めた三國が不意に呟いたが、公麿には遠い世界の出来事ように過ぎていくだけだった。目前の光景に目を奪われて、三國の言葉はただ耳を掠めるだけだ。
「この世界のことを調べてみたらさ、君のアパートが改装工事することになって暫く使えないことになっててね」
 その三國の言葉を裏付けるように、目の前のアパートは工事中と明記された看板と、シートで覆われていた。
 口を開けたままでぽかんとアパートを見上げた公麿は、こんな思わぬ形で影響が出るとは思わず途方に暮れていた。だが、ここにもう住めなくなるというわけではなく、看板の作業期間から数日だけだというのがせめてもの救いだ。その程度と言えば、それだけの影響だがその数日間が問題なのだ。
「それが、なんで俺の荷物が三國さんのとこに……」
「思い当たる節もあるんだけど、俺が預かるって言ったんだろうね。きっと……」
「あの……、迷惑掛けちゃってすみません」
「謝ることはないよ。君が悪いわけじゃない」
「そうだけど……」
 確かに、ディールの影響での自体には公麿の意志には則しては居ないが、そもそもその影響のきっかけを作ったのは公麿自身だ。
 だが、どうして友人達のところではなく三國の所に荷物を預けたのだろうか、そう言った不条理を含めての影響なのだろうか、第一に公麿だけの影響であるはずなのに、三國にすらデメリットが生じているのはどういうことなのか、ただシートを掛けられた我が家を眺めている公麿に、三國は声を掛けた。
「ここで話すのもなんだし、帰ろうか?」
 軽く叩かれた肩を公麿は見上げると、いつのまにかタクシーが彼等の側に停車していた。
「帰るって、何処に?」
 帰る場所など無いというのに、何を言っているのだと思えば開かれたタクシーの中に連れ込むように三國は公麿を引き寄せた。
「俺の家だよ。君はその間、俺の家に住むことになっているようなんだ」
「えっ……、それって……」
「まあ、詳しくは家で話すよ」
 シートに身を埋め行き先を運転手に告げると、もうそれ以上話すことは無いと言いたげに三國は静かに目を閉じた。




「先に風呂に入ってくるといい」
「はぁ…………」
 二回目の訪問とはいえ三國の部屋は公麿には、慣れた環境とはならなかった。家というよりも、部屋全体がなにかのオブジェのようで高層ビルを望む夜景と、間接照明の青い明かりがまるで水槽の中にいる気にさせる。落ち着く色合いでながら、まったく休まることのない部屋だがこんな自室で三國はいいのだろうかとふと公麿は思った。
「風呂借ります……」
 案内された浴室の広さにまた驚くと、バタンと三國が閉めた扉の音に合わせて大きく溜息をついた。まだ状況が掴めないが、とりあえずは情報を集めるしかない、まずはすっきりさせようと服を脱ぎ浴室へと向かった。



「あの、上がりました……」
 伺うような声に三國が視線を流せば、その先にはパジャマに身を包んだ公麿が立っていた。少し蒸気して血色の良くなった顔色と、未だ水滴の残る髪から落ちた雫が肩を濡らしている。
「髪、乾かさないとな」
 公麿の肩に掛けられていたタオルを掴むと、三國はまだ濡れた髪を拭き始めた。意外な行動に硬直したままの公麿の頭上から、手を動かしながらこう問われた。
「バスローブ用意してあっただろう?」
「俺、アレどう使うかわかんなくて……」
「バスタオルと同じだよ。俺も好きじゃないんだけどね」
「あれは三國さんのですか? これも?」
 今着ているパジャマは、生地も仕立てもよくとても公麿の手が出せるような物ではなかった。荷物を三國許に預けてあるといっていたが、用意されていた着替えはどれも身に覚えのない物ばかりなのだ。
「それは君のだと思うよ。第一サイズが違うだろう?」
 その服も、ローブも確かに三國が着るには小さく、なによりも公麿に誂えたようにフィットしていた。
「そうっすね……」
 着慣れない材質であるはずなのに、どこか身体に馴染む感化の違和感が気持ち悪い。まるで、塗り替えられていくような、認識と現在との齟齬のようだ。
「まあ、それが現実への影響ってとこかな」
「どういうことだよ?」
「その前に夜食にしないか? つきあえよ」
「はぁ…………」
 言われてみれば確かに空腹だった。この部屋の持ち主である三國が料理をするとは思わないが、どんな物が出てくるのか興味がある。区公麿が入浴中には、ワインを飲んでいたのか赤い液体が少しグラスに残っていた。
「お待たせ」
 これでも飲んでいてくれと渡されたミネラルウオーターを傾げながら、夜の水族館を思わせる室内を見渡していた。二度目ではあるが、それでも慣れない室内は時折雲が月を遮り暗くなるところが、まるで魚影のように思え、そして自身の影すらも魚の一部のように思える。
 こぽこぽと高そうなグラスの中で泡を出す炭酸は、魚たちの出す呼吸の産物なのかと青い室内に透明のグラスを翳していた。
 三國は何度か往復をし、水とつまみを運んでくれた。そして、今目の前に置かれたそれはこの室内で公麿と同じように異質の存在だった。
「かっ、カップ麺……」
「嫌いかい?」
「これ好きな奴っす。高いから滅多に喰わないけど」
 水、酒の肴も乾物ではなく生ハムとサーモンとチーズが現れ、メインの夜食はと期待していたのにある意味裏切られる形にはなっが、落胆と共に安堵のような物を感じた。
「これもそうかな、俺は滅多に食べないんだけど何故か置いてあってね。きっと君用だと思ったんだ」
「へえ……」
「俺も食べてみたくなってね」
 並んだ二つのカップ麺が、この生活感を感じさせない室内で蓋の隙間から白い湯気を漏らしている。
「さあ、食べようか」
 三分はキッチンで経過していたのか、渡された箸を受け取ると麺を啜り始めた。
作品名:Calvados 作家名:かなや@金谷