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もうひとつの約束・改訂版(ロイエド520)

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つまり、そんな風にうまく、世話を焼き…焼かれて、ともにいる時間は流れていた。

そんな風にうまく、大概のことは折り合いをつけていたの、だが。

*****

「あーもー! また、アイツ、裸銭しやがって」
床に転がるコインに、大きめのため息ひとつ。

そう、いつになってもエドが決まってぼやくのが、ロイのこの習慣だった。
ロイは基本的に身軽に動けるよう、バッグやなにやを持たないスタイルで。
その延長線として、ズボンのポケットに直にお金を入れる癖があるのだ。
「あ、くそ。待てって」
コインを拾おうと追いかけながらながら、ぶつぶつと呟く声が聞こえる。
「なんで、財布持たないんだ? ったく」
何故と聞かれても面倒だからで。
別に無くした事も困った事もないのだが、どうにもエドには、それが理解できないようだった。
かつて理由を聞かれ、大きな金はカードで間に合うし小銭程度なら財布は邪魔だと告げたら、返されたのは呆れた瞳。
それ以後、直接は言われなくなったが、納得しきっていないのはその行動でわかった。

『面倒なんだよ。取り出すの』
以前エドが申告したとおりに、ひっくり返したポケットから、転がり出る小銭たち。
なるほどこれかと考えるロイの視界に、飛び込んでくる煌き。
大きなコインがひとつと、小さめのが二つ。
すぐに止まったコインはエドの指に拾われたが、二つ目がコロコロと入り口近くに転がってくる。
「まったく」
ため息に続いて、俯いたエドの頭が視界に入ってきた。
と、コインを拾おうとした指がぴたりと止まる。
ふと足元を見れば、扉に向かってのびた影。
どうやら見つかったかとロイが壁から離れたところで、やや低い声がエドの唇から漏れた。
「……帰ってんだろ? 出てこいよ」
「おや、気づいていたのか」
呆れ半分で投げかけられる言葉に、ロイは悪びれた風もなくバスルームへの扉をくぐる。
「たった今、だけどな」
振り向きもせずエドは最後のコインを拾うと、中に戻り、カチャ…と、洗面台の上に置いた。

金と銀の光。
ちょうど520センズだと気づいたのか、少しだけ長く、金の視線が光るコインに止まる。

その事実を知りながら、ロイはそ知らぬ顔で「ただいま」と告げた。
「趣味ワリィなあ。いつから居たわけ?」
「そう長くではないよ。『あー、もう! また、アイツ』くらいかな」
「………ほぼ最初からじゃねーか」
唇をとがらせ振り向いた顔は薄っすらと染まり、言葉より素直に語る瞳に、ロイは無意識のうちに小さなキスを落としていた。
「なっ! な、なに……」
「すまない。あんまり可愛かったのでね」
自分の行動に半ば驚きながらも、染み付いたポーカーフェイスでさらりと告げる。
「男に可愛いとか、言うな! ばか」
今度は耳まで真っ赤にして背を向ける姿に、いつまでたっても初々しいなと笑みがこぼれた。

「そこ! アンタの金だろ! 置いてあるから!」
照れ隠し半分悔しさ半分で怒鳴ってくるエドに「ああ、ありがとう」と応え、洗面台に手を伸ばす。

わざときっちりポケットに入れた520センズ。
今回も置かれたコインに、ロイは心のどこかで安堵する。

520センズの小銭を、エドは必ずこうやって別の場所に置く。
偶然かとも思ったが、他の金額の時は躊躇せず手渡してくるのだから、意識しているのだとわかった。
(まったく融通が利かないというか……)
ロイのお金なのだから、たとえ手渡しても『返した』ことになりはしないのに。
そんな些細な事さえ避けようとする、幼い必死さが愛しい。

(まぁ……だからこそ、君なんだがね)
掴んだ520センズを、再び服のポケットに突っ込む。ちらりと眺め眉を顰めるが、エドは何も言わない。
くるりと背を向け、エドは洗濯の準備に余念ない風情を装うが、緊張した肩のラインで、ロイには芝居だとすぐわかってしまう。
置かれたコインの金額に、その意味に……ロイが気づいているのか図りかねたように。

「鋼の」
懐かしい二つ名で呼べば、ビクンと跳ねる背中。
そっと後ろから覆いかぶさり、軍服を抱えた腕ごと抱きしめる。
「せっかく、早く仕事を終わらせて帰ってきたんだ。それは明日でいい」
「え、だ、だって……」
「今からじゃ、どうせ乾ききらないさ」
「……天気、いいけど」
小さな高窓から刺し込むまぶしい光。
左手を伸ばしカーテンで遮ると、即席の薄闇を創る。
「ほら、もう暗いよ」
「また…そういう、…ん、ん…っ」
抗議する甘い唇を吐息ごと塞げば、さしたる間もなく、青い軍服は床にひらりと落ちた。

「明日にするだろ?」
「……そんな事言って、次の日、オレ、動けたためしがないんだけど?」
「ならば、その先でも構わないさ。替えはまだある」
今は自分のほうが優先だと抱き上げ、寝室にと進む。
「ほんっと、アンタってしょうがねえの」
苦笑しながらも抵抗しないのは、何度も繰り返されたやり取りだから。
諦め半分で、エドはロイの首に腕を回した。



放り込まれた、520センズ。
もうひとつの意味に、この少年はまだ気づいていない。

永遠を約束したそのコインで、思い出させて誘っているのだと、聡くて鈍い君は、いったいいつ気づくのだろう。

                                                            【 END 】