Special
きっぱりと真剣な顔でドラコは相手に釘をさす。
やっぱりハリーには、ほっぺたを真っ赤にしたまま、真面目な顔で注意するドラコはかわいく映った。
ハリーはそれをうっとり見つめながら、ちょっとだけ相手を困らせたくして、意地の悪いことを言ってみたくなる。
「ふぅーん……。それじゃあ……、僕が誰かと付き合って、その子と笑いあったり、手をつないだりしてもいいよね、ドラコは?今みたいなキスしても、それ以上のことをしても別に君はいいよね?」
途端にドラコまた泣き出してしまった。
「そんなのいやだっ!僕はいやだっ!!君が僕以外と仲良くするなんて嫌だっ!絶対にやめてくれ、ポッター!」
ボロボロと涙が滝のようにこぼれ落ちる。
「僕以外と仲良くなんかしないで欲しい!」
泣きじゃくって、すがりついてくる。
ハリーはやさしく笑って、よしよしとその頭を愛おしそうに撫でた。
スンスンと鼻を鳴らして、ドラコはじっとハリーを見つめる。
「僕とのキスはイヤ?」
「別にいやじゃないけど……」
ドラコは言いよどむ。
「あれは――、ああいうものはこの魔法界では、恋人どうしがするものなんだ……。マグルの習慣は僕にはよく分からないけど、ここではそうなんだ」
ハリーはニッと、口の端を上に上げて笑う。
「そんなの、僕の前いた世界でも同じだよ。安心して」
「―――同じなのか?」
子犬のようなキョトンとした瞳が、とびきりかわいかった。
「ああ、同じだよ。ああいう唇を合わせてするキスは、お互いが好きな同士がするんだよ……。こういうふうにさ―――」
相手のあごを持ち上げて、そっと唇を合わせた。
ちゅっとついばむと、ドラコはふうっとため息を漏らす。
「僕たちは別に恋人じゃない……」
つぶやく声。
「今からそうなればいいじゃん」
あっさりとハリーは気軽に言った。
ドラコは困った顔をしてうつむく。
「……少し考えさせてくれ」
「ええっ?今さら、何言っているの、ドラコは?あんなに情熱的に僕に告白してきたくせに!」
ハリーはひどく驚いた声をあげた。
「だって、よく分からないから……」
「よく分からないっていったい?」
「自分の中のこういう気持ちは初めてからだから、僕にはよく分からない……」
「いったいどういう気持ちなの?」
ドラコは真っ赤になりながら、もじもじとからだをゆさぶる。
ハリーの顔を見ては、またうつむき、そしてまたハリーの顔を見ては一層真っ赤になってうつむいた。
「―――恥ずかしくて、言えるか」
プイとそっぽを向いて、ふくれ面になる。
その仕草ひとつひとつが、相手をとても喜ばせていることを、ドラコは知っているのだろうか?
「えーっ、ねえねえ教えてよ」
ハリーはヘラヘラとヤニ下がった顔で言い募る。
「言わない!」
耳もうなじもみんな真っ赤にさせて、ドラコはずっとうつむいたままだ。
ハリーは(食べちゃいたいって、こんなときに言う言葉なんだなー)と、とろけるような顔でじっと相手を見つめる。
そのきれいなすべすべのうなじをそっと、下から上へと指先で撫でてみた。
「ぎゃっ!」
まったく色気のない声を上げて、ドラコは飛び上がって相手をにらみつける。
「やめろ!くすぐったいだろ」
「僕に触られるのイヤ?」
こくりと素直に頷く。
「びくって電気が走るみたいでイヤだ。怖い……」
ドラコはまだ自分よりずいぶんと幼いなとハリーは思う。
世間の荒波にもまれていないから、無理に自分のように、早く大人になろうとする努力もしなくてもいい環境で、ぬくぬくと暮らしてきたのだろう。
ハリーは小さく苦笑した。
「じゃあ、どうして欲しいの、ドラコは?」
おずおずと手をのばすと、ハリーの手を握ってきた。
ぎゅっと握ってくるから、同じように握り返すと、ドラコの顔が緩む。
また手をもう一度握ると、ドラコは目尻を下げて笑った。
「――嬉しいの?」
尋ねるとうんうんと何度も頷く。
「なんだかとても幸せな気分になる」
ドラコはハリーの胸元に頬ずりをすると、目を閉じた。
「心の中が暖かくなるよ、ポッター」
安心しきった表情だ。
「―――僕だけのものになって、ポッター……」
その言葉がどんなすごい意味を持っているのかちっとも分かっていないドラコは、無邪気な表情のまま、うっとりとした瞳でハリーに告白する。
柔らかく自分の腕の中に抱きしめなおして、耳元に息を吹きかけるように、そっとささやく。
「うん、ずっといっしょにいるよ」
甘い言葉にドラコは瞳を潤ませて、幸せそうに笑った。
「ずっとって、どれくらい?」
「君がイヤだと言うまで、ずっとそばにいるよ」
「……じゃあ、ずっと死ぬまでいっしょにいてくれる?」
「ああ、いいよ」
ドラコはとびきり嬉しそうな顔をして、相手に顔を寄せた。
「君は僕のものなんだ、ハリー」
そう言うと、ハリーも微笑みながら幸せそうな顔で頷く。
「ああ、そうだよ。―――そして君も僕のものなんだ、ドラコ……」
―――ふたりは見つめあい笑いあうと、手を握ったまま、そっと唇を重ねたのだった―――
■END■