Thank you
隠し部屋のドアを閉めると、途端にもう、ドラコの表情がガラリと変わる。
今までの、きつくて固い氷のような横顔を一気に緩ませて、振り向きざまにハリーに抱きついてきた。
「ポッター……。今日のクィディッチの試合、最高によかった!」
そう言いながら、少しの伸びをして両手を首にからませて、鼻を摺り寄せて笑う。
「そうかな?今回はハッフルパフもしぶとくてさー、苦労したよ」
顔をしかめて頭をかくと、ドラコは首を横に振った。
真っ直ぐで柔らかそうな髪の毛がふわりと横に広がった。
「そんなことないさ!余裕たっぷりに最後は一回転までしてスニッチを掴むところなんか、背筋がゾクゾクした。―――君があまりにもカッコよくて……」
舌でじゃれるようにハリーのほほを何度か舐めると、瞳を細めて笑いかけてくる。
「君のことを好きだと大声で言いそうになった」
その言葉にハリーは大きく表情を崩して、ひどく嬉しそうな顔になった。
「そんな大げさな言葉は、僕の専売特許だと思っていたのに」
ドラコはハリーをじっと見つめる。
「キスをしよう、ハリー……」
真っ直ぐな眼差しは少し潤んで熱をはらんだまま、薄灰色の瞳で覗き込んできた。
「―――キスだけ?」
ハリーがからかうように言うと、
「まさかっ!」
笑いながら手を取り、ドラコは自分からベッドへとハリーを誘う。
ドサリとふたりしてもつれるように倒れこむと、そのまま深いキスをした。
舌を甘く噛むと、ドラコは目を細めて、とびきり気持ちのよさそうな顔をして微笑む。
少しだけ音を立てて唇を離すと、ドラコは両手でハリーの眼鏡を持ち上げて、そっと外してテーブルに置いた。
そして、そのまま両手で相手のほほを包み込み、真剣な表情でハリーの顔をじっと見つめる。
「―――死なないで欲しい、ハリー」
「この場面じゃあ、『愛している』のほうがいいんじゃないの?」
「ああ、愛しているから、死なないで欲しい。僕をひとりで置いていくな」
そう言って、またぎゅっと抱きついてきた。細い肩が少し揺れている。
胸元に顔をうずめて、すがってくる背中を抱きしめ返した。
「不安なの、ドラコ?」
「ああ……。不安で不安で仕方がない……」
顔を上げるとドラコのその瞳は不安の色にくすんでいる。
「―――時々、君のことなんか好きにならなければよかったって、思うときがある。よりによって、なんで君のことを、好きになってしまったんだろうと、後悔してばかりだ」
ぎゅっとシャツを握って震える。
「本当に後悔しているの?僕のことを好きになって」
「ああ……。君となんか出会わなかったらよかったのにって、何度思ったことか」
ハリーは相手の背中を、安心させるように、何度も撫でた。
「でも、出合ったんだから、もう仕方ないじゃないか――」
ほほにキスをすると、ドラコは肩をすくめる。
「別に君に不満があるわけじゃない」
「わかっているよ、そんなことは」
「ただ、君が背負っている運命が気に入らない」
「もし僕がそこらへんにいる『ただのハリー』だったら、君は僕のことなんか好きになんかならなかったくせに」
からかうように言うと、ドラコはその言葉に苦笑する。
「そうだな。僕は君が『ハリー・ポッター』だから、好きなったのかもしれない」
「ドラコはブランドに弱いからね」
「僕は自分以下の人間は、相手にしなかったからな。むかしから…」
「確かに、やたら突っかかってきたし、ドラコの嫌味やイジメは超一流だったよ」
前髪をきっちりと撫で付けて、小さな肩をいからせて、薄青い瞳で自分にばかりケンカを吹っかけてきた相手が、今は自分の腕の中にいる。
いつの間に相手の前髪がおりて、いつの間にこういう風に、いっしょに過ごすのが当たり前になったのか、今では、もうよく覚えていない。
──ただ、こういうふうに、ドラコが自分に積極的になったのは、あるきっかけが原因だった。
ハリーはゆっくりと自分のシャツに手をかけ袖を抜くとそれを脱いで、上半身をあらわにする。
裸の引き締まったからだには、引きつった傷跡が何箇所も残って、肩には火傷のあともあった。
ドラコはハリーの傷ついたからだを目の当たりにして息を飲みこむと、そっとその傷ひとつひとつを確かめるように、指先でたどっていく。
「もう傷跡は痛まないのか、ハリー?」
肌を滑るドラコの指先は冷たくて、そのくすぐったいような感触に、ハリーは少し笑った。
「痛まないと言ったら嘘になるけど、少しはマシにはなったよ」
「ドラゴンの爪には毒があるからな。きっと本当はとても痛かったんだろ?」
ドラコはその背中の傷にキスをする。
くちびるが触れる感触に、ビリッと電気が走るような鋭い痛みが走り、ハリーは顔をしかめた。
「―――イ……ツッ!」
ドラコはその声に驚いたような顔をすると、突然ハリーに抱きついてきた。
首筋に腕を回して、自分から唇をよせて、かじりつくようにハリーを貪る。
ドラコからのキスは性急で余裕がなくて、まったく彼らしくなかった。
切羽つまったような必死な顔で、キスの合間に
「好きだ。好きなんだ、ハリー」
と熱く何度もささやく。
ハリーは甘んじてそれを受け止めながら、そっと薄くまぶたをひらいて、キスに夢中な恋人の顔を愛おしそうに見つめた。
(まったく君ときたら……)
ハリーは嬉しそうに笑った。
今までの、きつくて固い氷のような横顔を一気に緩ませて、振り向きざまにハリーに抱きついてきた。
「ポッター……。今日のクィディッチの試合、最高によかった!」
そう言いながら、少しの伸びをして両手を首にからませて、鼻を摺り寄せて笑う。
「そうかな?今回はハッフルパフもしぶとくてさー、苦労したよ」
顔をしかめて頭をかくと、ドラコは首を横に振った。
真っ直ぐで柔らかそうな髪の毛がふわりと横に広がった。
「そんなことないさ!余裕たっぷりに最後は一回転までしてスニッチを掴むところなんか、背筋がゾクゾクした。―――君があまりにもカッコよくて……」
舌でじゃれるようにハリーのほほを何度か舐めると、瞳を細めて笑いかけてくる。
「君のことを好きだと大声で言いそうになった」
その言葉にハリーは大きく表情を崩して、ひどく嬉しそうな顔になった。
「そんな大げさな言葉は、僕の専売特許だと思っていたのに」
ドラコはハリーをじっと見つめる。
「キスをしよう、ハリー……」
真っ直ぐな眼差しは少し潤んで熱をはらんだまま、薄灰色の瞳で覗き込んできた。
「―――キスだけ?」
ハリーがからかうように言うと、
「まさかっ!」
笑いながら手を取り、ドラコは自分からベッドへとハリーを誘う。
ドサリとふたりしてもつれるように倒れこむと、そのまま深いキスをした。
舌を甘く噛むと、ドラコは目を細めて、とびきり気持ちのよさそうな顔をして微笑む。
少しだけ音を立てて唇を離すと、ドラコは両手でハリーの眼鏡を持ち上げて、そっと外してテーブルに置いた。
そして、そのまま両手で相手のほほを包み込み、真剣な表情でハリーの顔をじっと見つめる。
「―――死なないで欲しい、ハリー」
「この場面じゃあ、『愛している』のほうがいいんじゃないの?」
「ああ、愛しているから、死なないで欲しい。僕をひとりで置いていくな」
そう言って、またぎゅっと抱きついてきた。細い肩が少し揺れている。
胸元に顔をうずめて、すがってくる背中を抱きしめ返した。
「不安なの、ドラコ?」
「ああ……。不安で不安で仕方がない……」
顔を上げるとドラコのその瞳は不安の色にくすんでいる。
「―――時々、君のことなんか好きにならなければよかったって、思うときがある。よりによって、なんで君のことを、好きになってしまったんだろうと、後悔してばかりだ」
ぎゅっとシャツを握って震える。
「本当に後悔しているの?僕のことを好きになって」
「ああ……。君となんか出会わなかったらよかったのにって、何度思ったことか」
ハリーは相手の背中を、安心させるように、何度も撫でた。
「でも、出合ったんだから、もう仕方ないじゃないか――」
ほほにキスをすると、ドラコは肩をすくめる。
「別に君に不満があるわけじゃない」
「わかっているよ、そんなことは」
「ただ、君が背負っている運命が気に入らない」
「もし僕がそこらへんにいる『ただのハリー』だったら、君は僕のことなんか好きになんかならなかったくせに」
からかうように言うと、ドラコはその言葉に苦笑する。
「そうだな。僕は君が『ハリー・ポッター』だから、好きなったのかもしれない」
「ドラコはブランドに弱いからね」
「僕は自分以下の人間は、相手にしなかったからな。むかしから…」
「確かに、やたら突っかかってきたし、ドラコの嫌味やイジメは超一流だったよ」
前髪をきっちりと撫で付けて、小さな肩をいからせて、薄青い瞳で自分にばかりケンカを吹っかけてきた相手が、今は自分の腕の中にいる。
いつの間に相手の前髪がおりて、いつの間にこういう風に、いっしょに過ごすのが当たり前になったのか、今では、もうよく覚えていない。
──ただ、こういうふうに、ドラコが自分に積極的になったのは、あるきっかけが原因だった。
ハリーはゆっくりと自分のシャツに手をかけ袖を抜くとそれを脱いで、上半身をあらわにする。
裸の引き締まったからだには、引きつった傷跡が何箇所も残って、肩には火傷のあともあった。
ドラコはハリーの傷ついたからだを目の当たりにして息を飲みこむと、そっとその傷ひとつひとつを確かめるように、指先でたどっていく。
「もう傷跡は痛まないのか、ハリー?」
肌を滑るドラコの指先は冷たくて、そのくすぐったいような感触に、ハリーは少し笑った。
「痛まないと言ったら嘘になるけど、少しはマシにはなったよ」
「ドラゴンの爪には毒があるからな。きっと本当はとても痛かったんだろ?」
ドラコはその背中の傷にキスをする。
くちびるが触れる感触に、ビリッと電気が走るような鋭い痛みが走り、ハリーは顔をしかめた。
「―――イ……ツッ!」
ドラコはその声に驚いたような顔をすると、突然ハリーに抱きついてきた。
首筋に腕を回して、自分から唇をよせて、かじりつくようにハリーを貪る。
ドラコからのキスは性急で余裕がなくて、まったく彼らしくなかった。
切羽つまったような必死な顔で、キスの合間に
「好きだ。好きなんだ、ハリー」
と熱く何度もささやく。
ハリーは甘んじてそれを受け止めながら、そっと薄くまぶたをひらいて、キスに夢中な恋人の顔を愛おしそうに見つめた。
(まったく君ときたら……)
ハリーは嬉しそうに笑った。