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―――彼が今のように豹変したのは『トライウイザード・トーナメント』(三校対抗試合)の後からだ。

あの第3の課題のあと、勝者となったハリーは著しく体調を崩して倒れ、生死の境をさまよった。

ドラゴンの毒がまわり、火傷はひどく膨れ上がり、ふさがった裂傷からはまた血がにじんでいた。
セドリックの死はハリーの心を深く傷つけ、ヴォルデモートの復活は激しいストレスとなって、彼を苦しめる。
ハリーの状態は、目も当てられないものになり、面会謝絶の危篤状態が長く続いた。

心配のあまり、真夜中に規則を破って訪れたドラコは、医務室のベッドに横たわり、浅い息で苦悶し続ける、青ざめたハリーの顔を、一生忘れないだろうと思った。


(ハリーが死んでしまうかもしれない)


ドラコはプライドや自意識過剰で傲慢な態度でしか、いつもハリーとは対峙していなかった。
たとえ、それが恋人どうしになり、からだを重ねる関係になった今でも、どこかでドラコはハリーを見下し、憎んでいたのかもしれない。

(この自分が同性と関係を持つようになるなんて)
(あのとき、あいつが抱きしめてこなければ……)
(僕は別にあいつのことなんかどうでもいいんだ。ただ、あのポッターが頭を下げて頼むから、渋々付き合ってやっているだけだ)

ドラコはそんな気持ちのままの態度でハリーに接した。
ハリーはドラコがどんなに、つれない素振りをしようと、手ひどい態度で自分を罵ろうと、ただ笑って相手を抱きしめてばかりいた。

「愛している」という言葉をひどくドラコが嫌うので、いつもハリーはその代わりに「ありがとう」と、何度も相手に言った。

ドラコはその感謝の言葉を、当然のように受けとめて、逆にとても傷つく言葉をハリーに浴びせることもあった。
「もう自分に触れてくるな」と言えば、ハリーは手さえ握ろうとはせず、「目障りだから、僕に近寄るな」と言えば、ハリーは極力ドラコの視界に入らないようにさえした。

ドラコが命令すれば、あの『ハリー・ポッター』が口応えすらせずに、自分の言うことに従う。
「なんで僕を避けるんだ!」と言えば、「ごめん。ごめん」と謝りながら、自分側に寄り添った。

―――こういう関係がずっと続くと、ドラコは信じていた。

そう勝手に思い込んでいたドラコにとって、その弱りきったハリーの姿に強い衝撃を受ける。

ほほがこけ、げっそりと青白い顔のままベッドに横たわり、浅い眠りに苦悶の表情を浮かべて、悪夢に襲われ、突然叫び声を上げるハリーなど、今まで見たことがなかった。

いつも自分のなかにいるハリーは、お人よしで笑ってばかりいて、情けない顔で頭をかき、仲間の人気者で、ピンチには強い、強烈な幸運のある英雄だった。

ハリーはいつも光の中にいた。
ドラコはその光が羨ましかったのかもしれない。

信じていた親友たちにも信じてもらえず、グリフィンドールの仲間からも孤立して、課題は過酷を極めた。
自分の味方が誰もいない中でも、ハリーはずっと前を向いて、果敢に前進していく。
彼にはもうそれが、自分の運命だと分かりきっているからだ。
だから、すべてをやり終えた後、ハリーの崩れ落ちるような体調の変化に、ドラコは愕然となる。

ハリーは不死身でもなく、英雄でもなく、ましてや救世主でもなかった。
ただの普通の14歳の少年でしかない。
ベッドの上で浅い息を繰り返しているハリーを見つめて、ドラコはボロボロと涙をこぼした。

(ハリーがいなくなってしまうかもしれない!)
その強い衝撃はドラコの思い上がった心を目覚めさせた。

『―――いつか』
なんて言葉をあてにしては駄目なことを、この弱りきったハリーを見てドラコは気づいた。
『今言わなければきっと自分は一生後悔するだろう』


――ハリーはそういう運命の上にしか、生きていないのだから。


彼の傍らに膝まずき、その手をぎゅっと握った。
「……愛しているんだ、ハリー。僕はとても君のことを愛しているんだ」
か細い震える声で何度もささやく。

ハリーはぼんやりと、かすんだ意識の中でそれを聞き、弱くドラコの手を、そっと握り返したのだった──

作品名:Thank you 作家名:sabure