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普(あまね)
普(あまね)
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The Beautiful Beast.

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冷たい扉に触れ瞳を閉じると、建物の呼吸を感じた。今にも途絶えそうな微かなそれ。瞳を開きゆっくりと扉を開く。視界に広がる老朽化した城――此処からは何処か不気味さを感じる。けれど、今の自分には相応しい場所だとも思った。入口から少し歩き奥へと進む。脳に絶え間無く流れるのはつい先ほど起こった、私にとって嫌な風景。
――なんて人は醜いのだろう。
そんな絶望感と共に此処に来た。此処で、この城で、私は生まれ変わる。私は美しく気高い獣になるのだ。永久に終わりを迎えることはない、身体を得るのだ。
城に入れば音は消え、光りも崩れかけた壁の隙間から漏れる自然光だけ。城の外の世界が全て遮断される。……けれど、恐ろしさはなかった。不安も、心残りも、何も思いやしなかった。けれど微かに浮かんだそれは――安堵。
静かに瞳を閉じて、いにしえより伝わる呪いの言葉を紡ぐ。私は私でなくなり、人ではない獣となり俺が生まれる。
目を開くとそこにはこの場には不釣り合いな綺麗な鏡があった。否、不釣り合いではない。この場全てが綺麗になっている。老朽化した城ではなく、造りあげられたばかりの城。鏡に佇む自分は今までと全く違う外見をしていた。雪のように白い肌に、薄い桜色の唇。髪は肌に映える、艶やかな黒檀。儚さがあるかんばせの中で、瞳だけ強く煌めく深い真紅だった。整った造形の顔は、程よく精悍さを纏っている。そしてその美しさの中で異質なのは頭から生えている角。明るい紅色のそれは美しく、けれど悍ましさがある。
けれど総じて全てが美しいのは事実だ。決して自然には生まれない、造られた美しさがこれにはある。
鏡を見て俺はにやりと笑った。俺は美しい獣へとなったのだ。醜い人という姿を捨てて。





俺が此処に住み始めてから数年経った。いや、もしかしたら数十年……数百年かもしれない。それほどまでに俺にとって時間とは緩やかで、果てしないものだ。
寂れたこの城に立ち寄る人間はいない。なぜならこの城は、外から見れば今までと変わらない老朽化した城だからだ。俺にもその原理はわからない。この呪いはきっと魔法のようなものなのかもしれない。答えなどないのだから、正しいことなどわからないけれど。
だから俺はずっとこの肉体と共に、朽ち果てるその時まで長い年月をゆっくりと……一人で過ごすのだと思っていた。
――今日、この日までは。
いつも通りガラス越しに空や木々、草原などを眺めて過ごしていた。時々子供達が遊んでいる姿を、蔑みながら眺めて。
でも今日は変化が訪れた。人が好んで立ち寄らないこの城の、冷たい扉が開かれたのだ。

「すみません、誰かいませんか?」
澄んだ、この広い場所でもよく通る声。その声に、俺は扉に目を向けた。扉には少女が立っていた。服は薄汚れ、隙間から覗く腕や足には泥がついていた。その格好はボロボロと言うに相応しいもので。
彼女から5メートルほど離れた場所に歩み寄る。すると彼女は安堵したように微笑んだ。
「貴方が此処に住んでいる方ですか?」
「そうですが……何か?」
「宜しかったら此処に暫く泊めさせて貰えませんか?」
困ったようにそう言う彼女に、いつのまにか自分は頷いていた。構いませんよ、と。
人間と関わりたくないゆえに此処に来たのに、一切の迷いなくそう答えた自分に驚いた。けれどその後彼女が見せた笑顔で――まぁいいか、と思ってしまったのだ。
なぜならそれは美しく、けれど何処か儚い笑顔だったからだ。俺が人間だった時、一度も見たことのない種類の笑顔だった。
「ありがとうございます!」

作品名:The Beautiful Beast. 作家名:普(あまね)